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働き方変化、顧客を深掘り 平均給与が増えた企業 1位 アトラエ、「社員の意欲」支える黒子

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61235190Z20C22A5TLB000/

 

コロナ禍で働き方などが変化するなか、人工知能(AI)などデジタル技術の活用で顧客ニーズをつかみ、稼いだ利益を待遇改善に充てる企業が上位に入った。首位はIT業界を中心とした求人サイト「Green(グリーン)」を運営するアトラエだった。

「古い産業から新しい産業への人材移動を支援したかった」。2003年にアトラエを設立した新居佳英最高経営責任者(CEO)はこう振り返る。現在主力のグリーンを投入したのは06年。当初こそ新興企業の利用が中心だったが、社会のデジタル化の進展で大企業の利用も広がり、今では収益を支える大きな柱だ。

同社の競争力の源泉は、10年以上かけて蓄積したデータにある。累計90万人超の求職者の年齢や年収などのデータと、8800社の給与や勤務地といったデータを照合し、企業と求職者を効率的にマッチングできる。グリーン事業に所属する人員の約半数がエンジニアとデザイナーだ。

IT人材への旺盛な需要を追い風に、業績は好調だ。2021年9月期の連結営業利益は前の期比38%増の10億円と過去最高を更新。平均給与は739万円と2年前から約200万円増えた。内訳は、おおよそ6割が賞与で、残りがベースアップとなる。

足元ではデータ分析のノウハウを生かした新規事業に注力する。社員の仕事への意欲や組織への帰属意識(エンゲージメント)の分析ツール「Wevox(ウィボックス)」の販売だ。

導入企業の社員に「職務内容にやりがいを感じているか」「会社の事業戦略や方針に納得しているか」などの設問に答えてもらい、その結果を「人間関係」や「自己成長」など9項目でそれぞれスコア化する。その後も質問を追加して数値の変化を確認。現在、2000社超の企業が回答した1億件超のデータを蓄積し、スコアの変化で従業員の内面にどのような影響が生じているのか、高い精度で把握できる。

働き方が多様化するなか、会社の目指す方向と現場の動きの違いに悩む会社は少なくない。そうした需要を捕捉し、さらなる成長につなげる考えだ。

7位のタツモは半導体製造向け薬液の塗布やシリコンウエハーを薄く削る装置などを手がける。顧客のニーズにあわせた多品種少量生産を得意とし、パワー半導体向けでは高い世界シェアを誇る。

半導体は中国の設備投資が旺盛なほか、米欧では経済安全保障も踏まえた自国回帰の流れがある。旺盛な半導体需要を追い風に業績拡大が続いている。

その傍らでは優秀な人材確保に向けた取り組みも推進している。20年1月には基本給と役職手当を含めて1人あたり平均で月額約2万4000円引き上げた。好業績を受けて賞与も増えている。同社の担当者は「今後も積極的に社員に利益還元し、人材確保にもつなげたい」と語る。

8位のコスモ・バイオは大学や研究所に実験器具や研究試薬を販売する。強みは理系大学院修了の専門人材による営業だ。全社員約100人のうち、理系の修士号や博士号取得者の割合は7割を占める。全国の代理店を通じて集めた各地の研究機関の動向を踏まえ、およそ1200万品を適切なタイミングで売り込む。

平均給与は759万円と2年前から21%増えた。平均給与のうち、売上高と営業利益に連動する賞与が伸びたことが主因という。コロナ禍を受けた補助金の増額で、研究機関や大学で医療研究が盛んになったことが支えになっている。

 

 直近の売上高が300億円以下の上場企業約1900社(TOKYO PRO Market上場、金融、決算期変更を除く、16日時点)が対象。基本給や賞与を含む平均給与は2020年12月~21年11月期の有価証券報告書ベースで、2期前比で増加率順に集計。従業員が50人未満、直近3期で給与・従業員数が前の期より減少した企業、直近期が赤字の企業は除いた。