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中小企業、なおFAXの山 40年未完の電子受発注

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC18D120Y2A510C2000000

 

官民挙げて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が叫ばれても、中小企業の事務机からファクスの山が消えない。日本では1970年代から企業間取引の「EDI(電子受発注)」システムが動き出したが、2次、3次の下請けは蚊帳の外のまま。中小企業の大多数が不在のDXではサプライチェーン(供給網)の生産性は底上げされない。

 

鋼材加工メーカー、中島特殊鋼(愛知県大府市)は約400社の取引先を抱え、ファクスで届く注文書の束に6人ほどの事務員がかかりっきりだ。大量にある注文書の内容を一つ一つ販売管理システムに入力していく手作業だけに、時には転記ミスもある。中島伸夫社長は「なかなか生産性が上がらない」とこぼす。

 

実は中島特殊鋼も大口取引先5社との受発注はファクスではなくEDIでのやり取りだが、紙は減っていない。大企業各社のEDIは独自仕様で互換性がなく、中島特殊鋼はEDI画面をいったん紙に印刷し、あらためて自社の販売システムに入力するからだ。業務負担はファクスとほとんど同じ。中島社長は「EDIの取引先が増えすぎると、むしろ業務が煩雑になってしまう」と指摘する。

 

〈Review 記者から〉「6%時短」の可能性も

中小企業庁とITコーディネータ協会による2017年の実証実験では「中小企業共通EDI」によって受発注業務の所要時間を平均58%削減できた。参加企業全体の総労働時間を6%短縮できる可能性がある。ファクスや紙による事務処理はそれだけコストが高くついている。

中小企業は約360万社ある日本企業の99.7%を占め、就業者の7割にあたる約3200万人が働いている。50年の日本の生産年齢人口は5275万人と20年比で約2200万人も減る見通しだ。いつまでもファクスや郵便に依存していては人手不足でビジネスが回らなくなる。

電子帳簿保存法で24年から注文書や請求書を電子的に受け取った場合、電子的に保存しなければならない。ファクスからEDIへとDXを促す法改正だが、効果は見えにくい。23年のインボイス導入も必要最小限の対策でやり過ごす中小企業が多いようだ。