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少子化を促すアジアの住宅高

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61032270T20C22A5TCR000

 

1989年に1人の女性が生涯に産む子どもの平均数(合計特殊出生率)が調査開始以来最低の1.57に落ち込んだことがその翌年に発表されたデータでわかった。いわゆる「1.57ショック」だ。それ以来、日本の少子化は、何十年にもわたって富裕な社会は時がたてば高齢化し、人口が減少することを他国・地域に先駆けて体現した例として世界に知られてきた。

 

今も日本の出生率は世界の歴史上でも極めて低い水準にある。だが、東アジアや東南アジアの裕福な国・地域に比べると日本はより高い水準にある。香港、マカオ、シンガポール、韓国、台湾の20年の出生率は0.8~1.1の範囲で、いずれも日本を下回った。

 

豊かで子どもを持ちたがらないアジアの国・地域には3つの共通点がある。第1に、これらの国・地域では、結婚せずに子どもを産む人の割合が低い。日本と韓国では未婚の母親が産む子どもの数は全体の約2%で、「先進国クラブ」とされる経済協力開発機構(OECD)で最も低い。西側先進諸国ではその割合はおおむね30~60%だ。

 

第2の共通点は教育費の高さだ。東アジアでは高額な塾や家庭教師など、「影の教育」と呼ばれる学校外教育が盛んで、家計の負担になっている。日本の夫婦に理想と考える数の子どもを持たない理由を尋ねると、最も多い回答は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」だ。

 

第3の共通点は住宅コストの高さだ。実は、日本の出生率が他のアジアの富裕国・地域に比べて高くなった理由として、この点が最も重要かもしれない。近年公表された複数の研究結果は、住宅価格が高くなるにつれ、子どもを持つ時期が遅くなる傾向があると示唆している。そうした論文の一つによると、米国では住宅価格が1万ドル(約127万円)上昇すると住宅を持っている家庭の出生率は5%高くなるが、持っていない家庭の出生率は2.4%下がるという。

 

東アジアの多くの地域、とりわけ中国の都市部では、若い人たちにとって家を買うことは難しくなる一方だ。東アジアで出生率が最も低いのは韓国の0.8だ。同国の住宅価格年収倍率(住宅を買うのに何年分の給料が必要か)は16.6で、OECDの中でニュージーランドに次いで2番目に高い。これに対し日本の同倍率は7.5でアジアで最も低い部類に入る。

 

日本の住宅価格が東アジアの他の国や地域に比べ比較的手ごろになっている理由に関しては、どこまでが供給や建築を容易にする政策によるもので、どこまでが経済成長の鈍さに起因するのかは経済学者の間でも議論が分かれている。いずれにせよ、人気の高い立地に住宅を簡単に建築できれば価格は抑制されやすくなる。

 

日本の老年人口指数(65歳以上の人口の生産年齢人口に対する比率)は、アジアの裕福な国・地域のなかで飛び抜けて高く、65歳以上が過多で、生産年齢人口が不足している。これは高齢者の医療費から年金給付につかわれる国家予算の規模まであらゆる問題に影響を及ぼす。

アジアの他の国・地域は出生率の低下が続けば、いずれ日本と同じ道をたどり、同様の問題に直面することになる。日本から学ぶべき教訓があるかもしれない。