https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60963980Q2A520C2BC8000/
「コレクションと展示のジェンダーバランスを問い直す」。福岡市美術館は、開催中の常設展(29日まで)のパネルにこんな文言を加えた。パネルの先には、草間彌生ら著名な女性作家の作品が並ぶ。例えば、英国の作家サラ・ルーカスの「ラヴ・トレイン」は、つぶしたアルミ缶やポートレート写真を使い、女性らしさといった固定観念を問うユニークな作品だ。
同館ではコレクション展と名付けた常設展を1年間にわたって催す。学芸員が持ち回りで準備に当たる力のこもった企画だ。今回展示された35点のうち25点は女性作家の作品だ。企画した正路佐知子学芸員は「これまでの展示で男女の不平等があることが気になっていた。不均衡に対して問題提起すると同時に、活動を見直すきっかけになれば」と狙いを明かす。
2021年5月時点で同館の近現代美術コレクション1万2000点超のうち女性作品は324点にとどまる。東京国立近代美術館や東京都現代美術館など都内の主要4館でも「美術手帖」の19年1月調査では8~9割が男性作品だった。こうした格差解消に向けた動きが広がりつつある。
アーティゾン美術館(東京・中央)は女性作品の新規購入を積極的に進める。ここ10年でエレイン・デ・クーニングら米の抽象画家や印象派画家のベルト・モリゾら女性作家作品を収蔵品に加えた。笠原美智子副館長は「海外では調査研究によって女性の画業を見直す動きがある。それと連動して今後も女性作品を収集していく」と説明する。
「モネからリヒターへ―新収蔵作品を中心に」展(9月6日まで)を開催中のポーラ美術館(神奈川県箱根町)では、新たに収蔵した田中敦子、ロニ・ホーンら女性作家9人の作品も紹介。岩崎余帆子学芸課長は「10年後には新収集作品の半数を女性作品にしたい」と力を込める。
美術教育の場でも女性は存在感を増している。創作現場でのジェンダー平等を目指す「表現の現場調査団」が21年に15大学を調査したところ、美術系学部や学科などの女性学生の比率は平均で73%に上る。ただ、教授職では依然、男性が87%を占めた。主立った美術賞の近年の受賞者でも女性の割合は31%にとどまり、「女性はノミネートされても賞を取りづらい傾向がある」(同調査団)。
美術界では長年、男性画家が有力なパトロンの支援を得て創作活動できたのに対し、女性は描かれる存在として捉えられ、技術を身につける機会は限られてきた。「美術史も男性中心に編まれ、明治以降の日本では良妻賢母となることが奨励された女性は美術教育からはじき出されてきた」と日本女子大の吉良智子学術研究員は指摘する。

コメントをお書きください