https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC227WP0S2A320C2000000
地権者らの思いを背負い、形にしていく。
「その先の提案がほしい」。2001年春、創業家出身で当時の社長、故・森稔さんからこんな指令を受けた。六本木ヒルズの開発がようやく始まった段階だったが、完成したその先のにぎわいづくりを任されたのだ。その名は「タウンマネジメント」。海外では比較的なじみのある言葉だったが、日本では「建物を造ったら終わり」という考えが主流で、森ビルにとっても未知の取り組みだった。
仕入れ部を経て2年目、念願の開発部に配属される。表参道ヒルズなどの開発プロジェクトに携わり、30代前半に「次は六本木をやれ」と言われた。
六本木チームでは地権者との合意形成を進めていた。その数は400人。再開発を進めるためには組合を設立する必要があった。法律上では地権者の3分の2の同意があれば組合を設立できる。だが、港区からは「大規模な再開発のため90%以上でないと認可できない」とくぎを刺された。
六本木の地権者400人 10年超かけ説得し開発
各地権者の考えや抱える事情は違う。既に賛成した人のため計画を急ぎたいが、六本木チームは個々の問題に耳を傾け続けた。「同意書にはんこを押してもらった社員が戻ると、歓喜の渦となった」
10年以上をかけ、同意率は93%に達し、組合は設立された。粘り腰で続けられたのは「地権者の人生や関係者の思いを背負っていたため」。「面白いことを仕掛けたい」という欲求も未知への挑戦の原動力になった。
「オープンマインド」。既成概念にとらわれず未知のものをつくり上げようとする意で、この言葉を大事にしている。そして、森さんから託された思いには、まだ先があると感じている。「全社一丸となって挑戦を続けていく」。人の思いを胸に、唯一無二の街づくりを進める。
【My Charge】食への探究心は尽きず 料理人との会話も刺激に
辻さんにとって至福の時とは、おいしい料理を食べることを指す。旅行する先々に、その土地ならではのおいしい食材がある。料理を味わうとともに、料理に合う酒を一緒に飲むことがたまらない。雑誌に掲載された目に付いた店や友人などから教えてもらった店は、必ずといっていいほど訪問する。
レストランでは料理人と話すことも楽しみの一つだ。料理人はクリエーティブな人が多く、様々な食材の組み合わせを頭で想像力を働かせている。これは色々な街を見て思いを巡らす自身の仕事に通じるという。もちろん「自分たちが開発する街にこういったお店があると良いなと思うことも多い」。
食材や酒にこだわるあまり、自分で現地に行くことも。酒類の中ではワインやシャンパンを特に好んで飲む。知り合いに紹介してもらい、フランス・ボルドー地方にある超高級ワイン「ペトリュス」のワイナリーを訪れたことがある(写真上)。1本何十万円もするワインだが、「味は本当に格別だった」。新型コロナウイルスの影響で海外旅行はここ数年控えているものの、収束後はボルドーやブルゴーニュ地方のワイナリーに行く計画を温めている。
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