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「ウィズ・プーチン時代」生き抜く投資戦略 人生100年こわくない・地球株の歩き方(藤田勉)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB122750S2A510C2000000

 

東西冷戦終結後の1990年代に、世界はグローバリゼーションの時代となった。軍事費の削減などの「平和の配当」や新興国の低廉な労働力と成長市場出現の恩恵を受けて、世界の株価は大きく上昇した(除く日本)。2000年代はBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、10年代は米国IT企業(GAFAなど)が世界の株式市場を大きくけん引した。

 

長期化するロシアの侵攻

ところが20年代に、コロナ危機とウクライナ危機の到来によって、株高を支えたグローバリゼーション時代は大きな転機を迎えつつある。ロシアによる侵攻が予想以上に長期化している要因は、以下の3点だ。

第一に、ロシア軍の装備は十分に近代化されていない。一方、欧米がウクライナに最新兵器を提供している。

第二に、ロシアが戦線を拡大している。実効支配する沿ドニエステル共和国(モルドバの東部)併合を目指し、ロシアはウクライナ南部に侵攻しつつある。

第三に、対ロシア制裁の効果が十分でない。欧州はエネルギー輸入のロシア依存度が高いため、厳しい制裁は避けている。「金融制裁」と言っても、国際銀行間通信協会(SWIFT)は、約300のロシアの銀行のうちわずか7行を除外しただけ。資源エネルギー価格高騰により、ロシアの経常黒字は昨年の16兆円から今年は30兆円に増加する見通しだ(世界2位、IMF=国際通貨基金予想、1ドル=130円換算)。

今後、ウクライナを欧米が支援し、ロシアを中国・インドなど新興国が支持するため、侵攻は容易に決着がつかないだろう。新興国の多くは、国内に人権問題や地域紛争を抱える国が多く、欧米的な民主主義の受容は難しい。さらに、ロシアのエネルギーと軍事力、中国・インドの経済力に依存している国が少なくない。

結果として、米国主導の経済制裁は38の先進国が参加するが、新興国は参加していない。国連人権理事会のロシア追放決議では、賛成93に対して、反対24、棄権58、無投票18(計100)だった。

2036年までプーチン大統領?

ロシアの独立系世論調査機関によると、プーチン政権支持率は82%と高い(4月)。プーチン大統領の最大任期は2036年(その時点で83歳)。習氏(67歳)の再任は無制限なので、38年まで国家主席であり続ける可能性がある(同83歳)。インドのモディ首相(71歳)も34年(同83歳)まで在任する可能性がある。こうして、これらの政権は長期化することが考えられる。

2012年の1ドル=75円以降、大円安時代を迎えているが、同時に大ドル高時代でもある。過去10年間の名目実効為替相場は、円が26.0%下落(3月時点)、ドルが29.2%上昇(4月時点)である。

米国は世界最大の軍事大国であり、歴史的に戦乱の多い欧州から遠い。世界最大の経済・金融市場を持ち、かつ世界最大のエネルギー・穀物生産国だ。こうして、新冷戦時代に世界のマネーはカントリーリスクが最も低い米国に流れ、さらにドル高が進むことが考えられる。

ハイテク分野のみならず、エネルギー、ヘルスケア、防衛、自動車、金融などほとんどの分野で米国が世界をリードするため、米国株に幅広く分散投資することが重要だ。さらに、米国の債券、不動産などの資産も有望である。こうして、新冷戦時代には、米国資産の投資魅力度がますます高まる。

米国で強い日本企業に追い風

「ウィズ・プーチン時代」は、米国での競争力が高い日本企業の魅力が高い。「悪い円安」と言われるが、米国で利益を上げている企業にとっては円安メリットが圧倒的に大きい。

米国市場の貢献度が大きいトヨタ自動車三菱UFJフィナンシャル・グループ東京海上ホールディングスセブン&アイ・ホールディングスなどの株価は堅調だ。

一方で、同じく米国に強いソニーグループキーエンスリクルートホールディングスの株価はこのところ下落しているが、業績は良好で、反発が期待される。中長期的には、後者の株価反発は大きいものとなるだろう。