https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60740900T10C22A5TCS000/
ロシアのウクライナ侵攻でこれまでのようなグローバル化はもう続かないと指摘したのだ。
同じころ米有力シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長も「グローバリゼーションの終わり?」と題する論文を公表した。こちらは疑問符がついているが、同じくグローバル化の行き詰まりを分析している。グローバル化の巻き戻しを意味する「ディグローバリゼーション」、減速を意味する「スローバリゼーション」という言葉も欧米メディアをにぎわしている。
新興国も巻き込んだ現代のグローバリゼーションの起点は、1989年のベルリンの壁崩壊による東西冷戦の終結、そして中国が改革・開放路線を加速した90年代初頭あたりだろう。
冷戦終結で東西の垣根がなくなり、ヒト、モノ、カネが自由に世界を動き回るようになった。世界貿易機関(WTO)などによる貿易・投資の自由化が進み、企業は世界で最も賃金が安く環境の整った最適立地を目指し生産拠点の国際化を進めた。これがロシアや東欧など旧共産圏や中国など新興国の躍進のきっかけになった。
グローバルガバナンス(国際統治)も制度疲労が深刻だ。国連安全保障理事会の常任理事国で拒否権を持つロシアの暴挙に国連は無力だった。WTOは機能不全が続き、新興国と先進国の対話の場として2008年の世界金融危機後に創設した20カ国・地域(G20)首脳会議は見る影もない。
世界を一つにまとめるシステムがないなかで、有志国による部分連合の動きが加速している。米国は日米欧の主要7カ国(G7)のほかに、英豪とのAUKUS(オーカス)、日豪印とのQuad(クアッド)を重視する。
さらにバイデン米大統領は今月下旬の来日時にインド太平洋経済枠組み(IPEF)の創設を目指す。一方、中国は昨年11月、シンガポール、ニュージーランドなどが提唱する「デジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)」への加盟を申請した。
マルチプレックス・ワールド(複合構造の世界)。インド出身のアミタフ・アチャリア・アメリカン大教授が提唱する新たなグローバル社会だ。同氏は世界を一つの施設に複数の映画館を併設するマルチプレックス・シアターにたとえる。米国主導の世界秩序が揺らぐ中で、グローバリゼーションはより多層的になっていくと予想する。
この20年余りのグローバル化の象徴になった言葉の一つにロシア、インド、ブラジル、中国の頭文字をとった「BRICs」がある。01年にゴールドマン・サックスのエコノミストのジム・オニール氏が発表したリポートで命名した。
今改めてリポートを書くならば、どんな題名になるのかオニール氏に聞いてみた。答えは「グローバリゼーションは終わらない、だがそれは姿を変えていく」だった。

コメントをお書きください