https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60737470T10C22A5KE8000/
第1に円安も円高も経済にプラス、マイナスそれぞれの影響が表れる。従って円安や円高に、一概に「良い」「悪い」というラベルを貼ることはできない。それぞれのプラス面、マイナス面をどう評価するか次第である。
第2に経済的影響の表れ方は経済部門で異なる。円安は生産者部門、特に輸出関連産業にとってプラスだが、輸入関連産業や家計にとってはマイナスとなる。
するとこれまで日本で、円安を歓迎し円高を忌避してきたのは、円レートの変動の諸影響を輸入部門ではなく輸出部門の視点で、また生活者ではなく生産者の視点で評価してきたからだといえる。考えてみれば、円高は家計にはプラス効果しかないのだから、これまでなぜ円高の評判が悪かったのかが不思議である。
悪い円安論が表面化したのは、円安の進行そのものではなく、それがエネルギー価格上昇と相まって輸入インフレをもたらしているからだ。今回の場合も、円安の影響だけをみれば従来とそれほど変わらない。
黒田東彦日銀総裁が「円安は全体として経済にプラス」と繰り返しているのも、円安の影響だけを切り出しているからだ。われわれはエネルギー価格上昇そのものをコントロールできないから、不満を言っても仕方がない。しかし円安には日本経済自体の姿が反映されているわけだから、不満の対象になり得るのだ。
この推察が正しければ、長い間続いてきた円高恐怖症が消えたわけではなさそうだ。今回の場合も、エネルギー価格上昇を伴わない円安だったら、悪い円安論は出なかっただろう。また今後円高が進行すれば、今度は「悪い円高論」が登場して、再び円高を忌避する議論が強まるだろう。
今回の悪い円安論を将来に生かすとすれば、政策姿勢を転換する契機とすべきだと筆者は考える。一つは、デフレからの脱却を最優先する姿勢から、輸入インフレへの対応への転換だ。
この点では、円安進行の背景に政府と日銀の政策姿勢の食い違いがあることが重要だ。政府は6.2兆円もの国費を投入して原油高・物価対策を進め、補助金まで支給してガソリン価格を抑え込もうとしている。一方で、日銀は依然としてデフレからの脱却を目指した超金融緩和策を続けている。政府が物価上昇を懸念しているのに、日銀は物価を上げようとしている。
これほど明確な政策的不整合があまり議論されないのは不思議だ。政策的不整合は内外金利差の拡大を通じて円安を進行させ、輸入インフレを加速している。
もう一つは、長期的な視点から為替レートに対する姿勢を見直すべきだ。円安は輸出産業を利するし、景気にもプラスだが、企業収益の増加は企業努力とは無縁のタナボタの利益に近いので、恒常所得とはみなされず、賃金上昇や設備投資の増加につながりにくい。また収益力の低い限界的な企業の生き残りを助けるので、経済全体の生産性・効率が低下する恐れがある。
さらにそれはいわば日本の労働力が国際的に低く評価されることによるものであり、安価な労働力を売り物にする時代に逆戻りすることになる。長期的な円レートは、日本の経済力・危機対応力・問題解決能力の評価が反映される。長期的な視点からは、日本の経済力、付加価値生産力が高まり、それを反映して円高に進むことを目指すべきだ。
○輸出部門や生産者の視点で円相場を評価
○13年の円安時にはエネルギー価格は安定
○経済力向上を背景とする円高促進目指せ

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