https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC069840W2A400C2000000
コロナ禍での未曽有のアウトドアブームの中、キャンプ場は混雑が続く。「自分だけの山」に憧れをもつ40歳代を中心に山の売買やレンタルの人気が上昇。木材価格の高騰を受け、投資目的の購入者も増えている。キャンプブームは日本の山問題に一石を投じるか。
1人の時間、誰にも邪魔されず
「まったく新しい生活をしたいと思った」。兵庫県で新聞販売店を営んでいた上田徹さん(50)は48歳のとき、山を買うことを決めた。奈良県に約2万平方メートル、和歌山県に約4万平方メートルの山をそれぞれ100万円ほどで購入。今では週に1度は山に入る生活を送っている。
「鳥のさえずりの中で火をたき、食事をして、1人の時間を楽しんでいる」(上田さん)。現在は流木やコケを扱う店「流木屋 地(つち)」(兵庫県尼崎市)を開き、自らの山でとれたコケなどを販売している。「フラワーアレンジメント用の竹やテラリウム用のコケ、爬虫(はちゅう)類の餌となる虫の飼育に使う落ち葉など、山でとれるものには幅広く需要がある。山を買うことに覚悟はいるが、個人的にはいいことしかない」
お笑いコンビ、バイきんぐの西村瑞樹氏(45)も山を買った人の1人だ。「1人で誰にも邪魔されず、完全プライベートの状況でキャンプがしたかったので買った」。2019年、群馬県の山を購入した。テニスコート5面分、約1500平方メートルの山でソロキャンプをするのが同氏の楽しみだ。
山の売買を手掛ける山いちば(京都市)では、22年度の売り上げが前年度比3割増の水準で推移している。ウェブサイトへのアクセス数も月16万回ほどと、前年より約3割多い。比賀真吾社長は「山の販売数も単価も上がっている」と語る。購入者は7割が男性。「20歳という人もいたが、中心は40歳代だ」(比賀社長)
山の売買を仲介する山林バンク(和歌山県古座川町)でも問い合わせの数は新型コロナ禍前の2倍近い数に増えている。辰己昌樹代表は「数年前まで50~60歳代が中心だったが、2年ほど前から40歳代が増えてきた」と語る。
売れ筋は都心部から近く、斜面が緩やかなキャンプ向きの場所がある山だ。個人に人気がある価格帯は100万~200万円台。「平たん地が多いキャンプ向きの山は限られている。山を買いたい人は減らないが、条件が合う山の方がなかなか売りに出ない状況だ」(山林バンク)。川や沢がある山も「せせらぎの音に癒やされる」と人気。「キャンプ用に買う人のほか、飼っている大型犬のためのドッグラン、自然農法を始めるための土地などとして買う人もいる」(山いちば)
年6万円台でレンタルも
より手軽な山林のレンタルを利用する人も増えている。木材製造業を営む山共(岐阜県東白川村)が20年11月に募集を始めた山林レンタルサービス「forenta(フォレンタ)」では、現在扱っている岐阜県の77区画、静岡県の35区画の大半が1年契約で貸し出し済みだ。
レンタル料金は年6万6000円から。岐阜県では1区画は約1000平方メートルあり、隣の区画に人がいても気にならないほどの広さがある。契約者は40~60歳代の男性が中心だ。山共の田口房国社長は「子供が手を離れて自分のやりたいことができるようになった層の利用が多い」と話す。「テントを張って1泊2日のキャンプをしたり、柵やデッキ、ドラム缶風呂などを作って秘密基地のように楽しんだりしている」(田口社長)
「山主」芸人、バイきんぐ西村さん「山も島もほしい」
「山主」芸人、バイきんぐ西村さん「山も島もほしい」
――群馬県で約100万円の山を購入されました。率直な感想は。
「買ってよかった。めちゃくちゃ静か。静かすぎてまき割りで木を割ったときの音が鳴り響く。そういうのがいい。テニスコート5面分ほどの広さだが、その土地にあるものは全部僕のものになる。倒木をノコギリで切り出してまきにするなどして楽しんでいる。夏はヤマビルが出るので11~4月にしか行けないが、ワイルドなキャンプがやりたかったので満足している。ヤマビルは足から入ってきて血を吸う。痛くもかゆくもないのだが、白い靴下が血で真っ赤になるので気持ちが悪い」
――固定資産税はどのくらいかかるのでしょうか。
「よく聞かれるが、僕のところは年間で固定資産税が380円。完全プライベートでキャンプをするために買ったので、ライフラインが必要ないからだ。電気やガス、水道などがなにも通っておらず、建物も建ててないので土地の評価額がものすごく低い。そのため固定資産税も抑えられている」
――管理はどうしていますか。
「買ってから一度も手入れしていないが、僕の山はなぜか草木がボーボーにならない。地形や土地によるのだろうが、手のかからない山だ」
――買ってみて思ったより大変だったことはありますか。
「やっぱり距離。僕の買ったところは都内から3時間弱。買ってみて行くようになると意外としんどい。自分の山なので、土日だろうが3連休だろうが、繁忙期はない。ただそこに行くまでの高速道路は混み合う。一度、シルバーウイークで4連休のとき、片道6時間かかったこともある。最初から覚悟しないとしんどい」
――今後、さらに山を買いたい気持ちはありますか。
「山もほしいし、島もほしい。ただ、なかなか妻の許可が下りない。『1つでいい』といわれるが、毎回同じ場所だと飽きる。毎回同じ店で飲んだら、飽きて他の店でも飲みたくなるのと同じような感覚だ。今後買うなら都内から1時間半くらいの山。新東名高速道路もできたし、神奈川県の丹沢や千葉県の木更津あたりがいいなと思っている。ただ千葉の山は高さがなくて暑い。本当は1000メートル級の標高が高いところがいい。1000メートルあったら地上から7~8度低く、避暑地としてちょうどいい」
――総合して、山を買うのはおすすめ?
「10対0でおすすめだ。僕の場合、地元の不動産屋さんがサポートしてくれ、わからないことを教えてくれる。親身に相談に乗ってくれる不動産屋さんをおすすめする」
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