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離婚「3組に1組」説の真偽は? 専門家が本気で計算 くらしの数字考

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD132R20T10C22A4000000

 

人口学的には由来に意味なし

この「3組に1組」という表現はメディアなどでも繰り返し使われてきた。1年の離婚件数を同じ年の結婚件数で割った数字に由来するようだ。厚生労働省の人口動態統計によると、2020年の婚姻件数は52万5507組。離婚件数は19万3253組。単純に割ると36.8%で、確かに3分の1強となる。

 

離婚率、というか、結婚した夫婦が離婚する確率を知りたいと何人もの人に聞かれますが、難問です。どう計算すればよいのか……」

そこで国立社会保障・人口問題研究所の人口動向研究部長、岩沢美帆さんに助けを求めた。「36.8%という数字は単に2020年の結婚に対する離婚の比率に過ぎません。人口学的には意味がないですね」

政府統計の考え方「全く別」

実は「離婚率」はれっきとした政府統計の専門用語として存在する。出生や死亡など人口統計を扱う専門家である岩沢さんによると、人口動態統計の一項目なのだという。

ところで、一般に「率」を算出する場合、母数はそのリスクにさらされている集団の人数でなければ意味がない。分母に未婚者や子どもなども含まれる「離婚率」はその感覚から外れる。結婚した夫婦のうち離婚する割合を知りたいのだが、個々の夫婦を追跡した公的調査はない。

「皆さんが本当に知りたいのは『35年累積合計離婚率』だと思いますよ」。聞き慣れない言葉とともに、岩沢さんが独自の計算を始めた。夫婦が結婚35年後までに離婚する確率をモデル化して出してみようというのだ。

結婚35年後までをモデル化すると

算出には、ある年(X年)における結婚持続期間(同居期間)別の離婚件数を使う。X年に離婚届を出した人のうち、「同居期間4年」で離婚した数を分子に、X年より4年前(X-4年)の婚姻数を分母にして割合を求めれば、「4年目の離婚率」が出る。こうしてX年までに離婚した人々の状況を35年分累積し、疑似的に一組の夫婦を35年間にわたって「追跡」する。

たとえば、2020年に離婚届を出した夫婦のうち、結婚4年目で離婚した件数を、4年前の2016年の結婚件数で割る。これが「16年に結婚した人の4年目の離婚率」だ。この作業を5年、6年、7年、と35年分繰り返し、結果を積み上げると「35年累積合計離婚率」が出る。

結果は意外だった。2020年時点で、結婚後35年までに離婚する割合をおおまかに計算すると28%。1985年以降に結婚した夫婦の3組に1組弱が離婚したことになる。

最初に挙げた「2020年の結婚数に対する離婚数の単純な割合」は36・8%。9㌽ほど差はあるものの、計算方法が全く違う割にはともに「3組に1組」の範囲内だ。岩沢さんも「図らずも、世間でいわれているイメージとおおむね合いそうですね」と話す。

ところで、結婚後35年を超える夫婦の離婚は考慮しなくていいのだろうか。岩沢さんは「35年以上で離婚する割合はごくわずか。大半は35年までに起こるため、この方法で計算しました」と説明する。

一般的に人間は、ある状態を継続するように行動する性質がある。結婚が長くなるほどその状態を保とうとする傾向が強まり、離婚が減るのだ。そもそも高齢になれば、離婚よりも死別が増える。

離婚夫婦の平均同居は12年

実際、人口動態統計をみると、離婚した夫婦の平均同居期間は12年だ。最多は「5年未満」で32.5%。離婚する男女は15年以内に7割近くが別れ、20年、30年と経過するにつれ件数は減っていく。そして96.6%は35年までに決着しているのだ。熟年離婚も微増傾向にあるものの、結婚が破綻するかは、おおむね15年以内に白黒がつくようだ。

この方法で過去に遡って詳しく見てもらうと、人口動態統計の人口千人あたりの「離婚率」の推移とも重なった。

両者を考え合わせると、戦後日本の夫婦で離婚の確率が最も高まった時期は2000年代前半だ。岩沢さんの試算では2020年時点より6㌽高い34%。当時もまさに「3組に1組」だ。それでもパーセンテージで見れば足元では1990年代半ばの水準にまで下がり、近年は日本で離婚が起きにくくなったと分かる。

非婚が増えれば破綻は減る

新型コロナウイルス禍で離婚が増えている。そんな印象も拭えない昨今だが、実態は逆だ。2010年以降は件数減はもちろん、比率も低下する傾向が続く。

ニッセイ基礎研究所の人口動態シニアリサーチャー、天野馨南子さんは「景気と離婚は密接な関係があり、一般的に離婚は不景気になると増える」と説明する。特にかつての「男性は仕事、女性は家庭」と役割分担する夫婦像にならって1990年代半ばまでに結婚した夫婦は、バブル崩壊で経済環境の激変に直面。「男性の経済力をあてにしていた女性が耐えかねて離婚し、自立した例は少なくない」(天野さん)

足元で離婚件数や割合が減っているのは、生涯未婚率の上昇とも関連があるようだ。「バブル世代の失敗例を見ている今の男女は、夫婦が共働きで支え合える、経済的に安定する、と判断できた場合に結婚に踏み切る傾向にある」(同)。独身を選ぶ人も増えるなか、天野さんが言う「男性の経済的責任が重く、離婚リスクの高い結婚」がそもそも減少。それに伴い離婚という結末も減っているようだ。