キャリア形成の支援プログラムを増強するなどして、既にアジアの中でも高い女性企業幹部の割合をさらに高め、世界から優秀な人材を引き寄せる狙いだ。
「男性と同じ機会を与えられ、女性だからといって不利だと感じたことはなかった。私は幸運だった」。保険会社シングライフ・ウイズ・アビバのパーリン・ファウ・グループ最高経営責任者(CEO)は、自身のキャリアをこう振り返る。現地最大手のDBS銀行で昇進を重ねたファウ氏は2021年、再編によって発足した保険会社のトップに転じた。
シンガポールではファウ氏のような女性CEOは珍しくない。デロイト・グローバルの調査ではCEO職に占める女性の割合は13.1%と、調査対象の約70カ国・地域の中で最も高かった。この割合が0.3%にとどまる日本からみると、女性が活躍する機会ははるかに多いようにみえる。
ただ、そんなシンガポールでも男性優位の構造は根深く残っている。取締役が全員男性の企業の割合は、時価総額上位100社のグループでは13年の50%から直近で15%まで減ったものの、それ以外の上場企業では依然50%と高い。13年時点の57%から低下幅はわずかにとどまる。
政府は3月末に発表した女性問題に関する白書で、25の行動計画を発表。職場での男女の機会平等も柱の一つに掲げ、キャリア形成や再就職の支援、育休取得や柔軟な働き方の定着といった具体策を列挙した。リー・シェンロン首相は「女性社員、とりわけ子供を持つ女性の雇用や昇進に後ろ向きな企業は今も存在する」と指摘した上で、「我々の偏見が女性の活躍を阻む障害になってはならない」と強調する。
不動産大手フレイザーズ・プロパティーが育児や介護に従事する必要がある社員に在宅勤務を認めるなど、ここにきて女性が働きやすい施策を一段と充実させる企業が相次ぐ。女性の活躍推進に詳しいエリザ・マリス氏は「企業幹部が後援者となる社内プログラムで女性社員の昇進を後押しすることと、男女ともに育休を安心して取得できる環境をつくることが重要」と話す。
男女格差の解消は社会的な要請であるだけでなく、企業の戦略上も重要課題だ。新型コロナウイルス後はオフィスと在宅を組み合わせるハイブリッド勤務が世界標準となり、多様性を尊重しない企業には優秀な人材は集まらない。外国人が人口の3割弱を占めるシンガポールはそのことを理解し、いち早く手を打っている。日本はどうだろうか。

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