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「優しい鎖国」の見えない損失 ソフトパワー低下止めよ

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK064N10W2A500C2000000

 

日本は外国人観光客の入国を認めない事実上の鎖国ともいえる政策を敷いている。首相は水際措置を「6月には」欧米並みに緩和すると述べたが、入国者数などの制約は徐々にしか緩めないようだ。ぜひ日本に行きたくても、入れてもらえない実態はなかなか変わらないのではないか。

 

新型コロナウイルスのオミクロン型の流入を止めようと日本は2021年11月30日に全世界からの外国人の新規入国を停止した。未知の脅威を水際で食い止める措置は当初はやむを得ないとしても、その意味が薄れた段階で機敏な見直しが必要だった。

世界保健機関(WHO)は22年1月に渡航制限が「効果的でない」と日本などに緩和を促したが、「主要7カ国(G7)で最も厳しい」と水際対策を誇示した首相の動きは鈍かった。ワクチン接種者への隔離義務などを緩め、4月に入国者数の上限を1日1万人に引き上げたが、再開の出遅れは著しい。国内にも海外にも優しい顔をしようとする日本の代償は大きい。

米テキサス州にあるサザンメソジスト大学の武内宏樹准教授は約20人の学生を日本に送る今夏のプログラムを断念し、英国に切り替えた。日本政府は限定的に外国人留学生を受け入れる方針を示したが「決定が遅すぎ、受け入れ数が少なすぎ」で、準備が間に合わなかった。「今夏、日本に学生を送る米国の大学はおそらくないだろう」と語る。

「日本からの学生はもう受け入れない」「来年は米国から送る交換留学生を2倍にしてほしい」……。日米の大学間の交換留学制度でもこうした声が日本側に届き始めているという。米国側だけが日本の留学生を受け入れて一方的に財政負担をかぶる構図となり、不満が蓄積している。

「今後1年、2年したら状況は戻るだろう、という発想は学生の立場を全く分かっていない」。武内氏はこう指摘する。1月に同氏など米国の研究者らが首相に嘆願書を出したが、政府の反応は鈍かった。日本に関心を持つ米学生の機会を奪い、学術交流にも長期的な支障が生じる。数値に出ないが、甚大な損失だ。

外国人がビジネスで新規入国するには日本の企業などが「受け入れ責任者」として厚生労働省のシステムにオンライン申請し、入国者が出発前に日本大使館などでビザを取らねばならない。国内での行動制限がなくなる中で、外国人に多大な事務負担を強いる必要がどこまであるのか。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「19年に日本のインバウンド消費は4.8兆円あった。国内の需要はなかなか高まらないので、海外需要の助けが必要だ」と語り、政策の再構築が欠かせないと説く。

円安・ドル高が進み、外国人の潜在的な購買力は高まった。本来なら日本への観光でインバウンドの消費や投資が点火する局面だが、日本は意図的にそれを止めてきた。

4月に4年間の米国赴任から戻り、東京の街を歩いて、2つ気づいたことがある。まず、外国人の姿を本当に見かけなくなった。人口の高齢化と相まって、街の活気が一段と衰えたように感じる。

もうひとつはマスクだ。混雑した電車の中や店舗、オフィスで感染防止の対策を取るのは重要だが、日本では他人と十分な距離がとれる路上や公園ですらマスクを外すことは許されない空気がある。米国では屋外でマスクをする人はまばらで、着用の義務はごく一部の施設に限られる。

3年越しで外国との接触を断たれた日本の人々が、外国人の入国に一定の警戒感を抱くのは無理もない。だが、現状維持に安住する鎖国政策を敷いた日本のソフトパワーの衰えは、国の将来に深い爪痕を残しつつある。

地位の挽回には国民に長期的な視野での国益を説き、果断に動くことが必要だ。「開かれた国」を語る岸田首相にどこまでの覚悟があるか。