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アジアに「職住一体」の波 若者にコリビング需要

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM080IH0Y2A500C2000000

シンガポールの宿泊施設大手アスコットは2030年までに現在の17物件から150物件まで増やす。欧州大手もシンガポール大手と合併し、参入した。リモートワークなど勤務場所を固定しない新たな働き手のニーズに応える。新型コロナウイルス禍を経て、働く人材の流動化を後押ししそうだ。

アスコット、150施設展開へ

シンガポール中部、ワンノース地区。地元不動産大手キャピタランド・インベストメント傘下のアスコットが4月中旬、コリビングブランド「lyf(ライフ)」の最新施設をオープンした。

ワンノース地区には企業のオフィスや研究施設が集まる。開業した物件は30~40歳前後の「ミレニアル世代」やその下の「ジェネレーションZ(Z世代)」を意識し、324室の客室だけでなく、ロビーやランドリーも原色系のモダンなデザインを多用した。居住者の交流を促すイベントに加え、拡張現実(AR)と仮想現実(VR)を体験できるラボも設けた。

コリビングは英語表記だと「Co-living」。数週間や数カ月単位から契約できる共同居住施設で、欧米の大都市でも広がっている。

「デジタルノマド」の受け皿

一般的に年単位の契約が必要な賃貸よりも柔軟な期間設定を求める若い世代や出張者を吸い寄せている。各国で人材の争奪戦が激しくなるなか、デジタル機器を駆使して様々な場所で働く「デジタルノマド」の受け皿としても期待されている。

同社がここに来てコリビングに注力するのは、職住一体型の物件への需要が高まっているためだ。宿泊部門を統括するケビン・ゴー氏は「新型コロナ禍で新しい働き方に拍車がかかり、新たな居住体験を求める『デジタルノマド』やフリーランサーが増えている」と指摘する。

欧州大手ハビットも進出

シンガポールにアジア展開の足場を築こうと、欧州大手も進出する。4月中旬、シンガポールのコリビング大手ハムレットが、欧州の同業大手ハビットと合併すると発表した。ハムレットはシンガポール、香港、日本で、現在1200室の規模を22年末までに2300室に倍増する計画を立てていた。ハビットは合併新会社を通じ欧州を含め10カ国・20都市に物件網を一気に広げる。

シンガポール都心部のライフに7カ月間住む中国・広東省出身の学生、トリスタさんは4人で部屋を共有することで毎月の負担を1250シンガポールドルに抑えている。家賃が高騰するシンガポールの中心部としては破格と言える。

普及期、競争激しく

シンガポールの不動産コンサルティング会社エドモンド・タイのデズモンド・シムCEOは「ミレニアル世代は両親と郊外で同居するより、都心に住みたがる一方で、住宅ローンを抱えたがらない」とコリビング人気の理由を分析する。

実はコリビング市場は10年代後半に注目され始めたものの、新型コロナ禍で急減速した経緯がある。パンデミック(世界的大流行)を受けた働き方の変化や、人や会社と緩いつながりを求めるミレニアル世代の意識、大都市の賃貸価格の上昇といった多様な要素が絡まり合い、コリビングは本格的な普及期を迎えようとしている。

ただ、課題はある。新たな業態だけに不動産オーナーの理解が今のところ十分ではなく、賃貸やホテルよりも開発物件や用地の取得が難しいようだ。今後は新規参入が増え、競争激化によって収益性が低下する可能性もある。運営企業は大量に開業するノウハウを確立し、認知度やブランドの向上を急ぐ必要がある。