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円安はリスクにあらず 韓国などアジア勢、日本との立場が逆転

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60533060W2A500C2TM5000/

 

日本の半導体産業における影響力が低下するなか、サムスン電子とSKハイニックスは独自の製品で世界市場を開拓してきた。現代自動車とグループの起亜自動車は、もはや日本車の代替を売る立場ではない。

 

英スタンダードチャータード銀行の韓国・日本経済調査責任者のパク・チョンフン氏は「韓国企業から円安の悪影響があると聞いたことはない。各社は非常にうまく対応している」と述べる。別の業界関係者によれば、サムスン電子の利益に円安は影響していない。取引のほとんどは米ドル建てで、半導体製造装置は日本から輸入しているが、売上高と比べれば一部にすぎない。日本で販売しているのはスマートフォンだけだが、市場シェアも大きくないという事情がある。

ソニーグループやパナソニックなど日本企業に有機EL(OLED)パネルを販売するLGディスプレーも、取引のうち円建てが占める割合はごく一部だ。サムスンディスプレーも、ソニーからの代金はドルで受け取っているという。

アジアは成長し、弱い円と国内の成長鈍化を背景に、日本企業にとってはアジアでビジネスを行うことがますます重要になっている。

実際、日本の銀行は近年、積極的にアジアの資産を購入している。過去2年間をみても、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がシンガポールの配車アプリ大手グラブへの最大7億600万ドル(当時は約780億円)の投資に合意した。三井住友フィナンシャルグループはフラトン・インディア・クレジット・カンパニーの株75%、フィリピンのリサール商業銀行の株5%、ベトナムのノンバンク、FEクレジットの株49%を取得した。

ただ、アジアは円安による悪影響を受けていないにしても利益も得ていない、と京都大学東南アジア地域研究研究所の三重野文晴教授は述べる。アジア経済がモノからサービスへと移行している側面がある。

円安は日本への旅行や留学をしやすくするはずだったが、新型コロナウイルスの流行拡大で、アジアの旅行者が入国できない状態が続いている。コロナ禍以前の2019年に、外国人旅行者は日本で4兆8千億円を使い、日本の貿易収支の穴埋めに寄与した。このうち中国人は旅行者の3割、留学生の4割を占めた。

三重野氏は「海外からのインバウンド旅行需要のポテンシャルは相当あると思うが、いつ動きだすかが問題となる」と語る。

しかし、中国は独自の「ゼロコロナ」政策により、海外旅行の再開には程遠い状態だ。来日旅行者で大きな割合を占める隣国の韓国でも、日本への旅行を促進するような動きはまだ顕在化していない。

現代リサーチ・インスティチュートのシニアエコノミスト、ジュ・ウォン氏は、日銀には政策金利を引き上げる余地がほとんどなく、米連邦準備理事会(FRB)や韓国銀行が利上げに動いているため、円は対ドルでさらに下落するだろうと予測する。「日銀次第だが、債務など国内問題のためにしばらくは利上げできない可能性がある。一方で韓国は米国の道筋に沿っており、差はさらに広がる」