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グローバル化のつまずき ロシアとマクドナルド

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK267K90W2A420C2000000

 

米紙ニューヨーク・タイムズの著名ジャーナリスト、トーマス・フリードマン氏が唱えた。

 

フリードマン氏の考えを有名にしたのが、1999年の著書「レクサスとオリーブの木」である。第10章「戦争とマクドナルドの不思議な関係」のなかで、こう述べられている。

 

「マクドナルド」があれば戦争しない?

「ある国の経済が、マクドナルドのチェーン展開を支えられるくらい大勢の中流階級が現れるレベルまで発展すると、そこはマクドナルドの国になる、と規定する。マクドナルドの国の国民は、もはや戦争をしたがらない。むしろハンバーガーを求めて列に並ぶほうを選ぶ」。経済的な豊かさが領土的野心を抑えるという見立てだ。

 

技術を過信しすぎという批判

米コロンビア大学のジャグディーシュ・バグワティー教授は99年5月3日付ウォール・ストリート・ジャーナルで「レクサスとオリーブの木」を評論し、フリードマン氏はインターネットなどの技術進歩を重視しすぎているなどと批判した(バグワティー教授の批判)。さらに「北大西洋条約機構(NATO)によるユーゴスラビア空爆によってM型アーチ理論は否定されている」と断じた。

米マサチューセッツ大学アマースト校のポール・マスグレイブ助教授は20年11月発表の論考「マクドナルド平和理論の美しくもバカげた夢」で08年のジョージア紛争や14年のロシアによるクリミア併合などの例を挙げ、M型アーチ理論の誤りを指摘した。

米国化を望まなかったBRICs

01年にBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の成長を予想した元ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニール氏は、「中国などの新興国も成長して私たち(=米国)のようになりたいのだと思っていたが、それは間違いだった」と振り返ったことがある(ジム・オニール氏のインタビュー)。

米国の信任の揺らぎと新興国の台頭、さらに新型コロナウイルスの感染拡大、そしてウクライナ危機。今ではフリードマン氏の理論が象徴する楽観主義は大きく後退した。かわって広がるのは、例えばこんな不透明感に満ちた世界観だ。

楽観の時代は過ぎ去った

しかし、コロナとウクライナが企業活動を鈍らせ、それが容易には元に戻りそうにないという認識も広く共有されつつある。グローバリゼーションは今後も続くにせよ、楽観の時代は過ぎ去ったと考えるべきだ。

実は、ほとんど言及されないが「黄金のM型アーチ理論」は「マクドナルドの国の国民は戦争をしたがらない」と述べたあとで、こう続く。「これを無視する指導者や国民は、自分が思ったよりもはるかに高い代償を払うことになる」。まさにロシアとプーチン大統領が直面している問題だ。ここに「レクサスとオリーブの木」の現代的なメッセージが隠されている。