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タイのホテル、強気の投資 コロナ後へ国内外で布石 セントラル、760億円で規模倍増/アセットやマイナーも攻勢に

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60559580W2A500C2TEZ000

 

セントラルはタイの小売り大手として知られ、ホテル事業では「Centara(センタラ)」などのブランドを展開している。同事業で2026年までに約200億バーツ(約760億円)を投じ、運営規模を現在の約90軒から200軒に増やす。

日欧にも進出

国内では23~24年に首都バンコクや南部のリゾート地サムイ島で高級ホテルを開業する。海外では23年に同社として日本初のホテルを「センタラ」ブランドで大阪市に開く。欧州では米ハイアット・ホテルズがオーストリアの首都ウィーンで計画する高級ホテル「トンプソン・ウィーン」の開発に加わる。百貨店に隣接して148室を備え、24年の開業を目指す。

セントラルの大型投資は「コロナ後」の観光需要回復への布石という位置づけだ。同社傘下でホテル運営を手掛けるセントラル・プラザ・ホテルの21年の売上高は111億バーツと19年の半分程度に落ち込んだが、セントラルのトッス・チラティワット最高経営責任者(CEO)は「今後5年で大きく成長する」とみる。

市場の回復期待を背景に、タイのホテル大手ではアセット・ワールドも4月に北部チェンマイで高級ホテルを開業した。さらに165億バーツ規模の投資基金も設定。アセットが15~60%を出資し、残りを国内外の投資家から募る。アセットはタイ国内19カ所(4月時点)でホテルを運営しており、主要観光地を軸に事業拡大の原資とする。

高級ホテル「アナンタラ」が人気のマイナー・インターナショナルは22年に64億バーツを投じる。21~25年に追加する約1万3千室のうち、8割は不動産所有者らから運営を受託する方式をとる。中国では地元同業との提携を通じ、今後5年で新たに100軒のホテルを運営する考えだ。

マイナーは既に50を超える国・地域でホテルを展開し、21年12月期まで2期連続で最終赤字だった。「観光客はコロナ前の水準に回復する」(同社)と期待しており、早期の黒字化を目指す。

タイ以外でも大手が攻勢を強める。インドネシアでは米ヒルトンが22年後半、バリ島に高級ホテルを開業し、ホテルオークラも25年までに首都ジャカルタに進出する。インドメディアによると、同国では英インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)が20年代前半にも運営ホテルを78軒に倍増させる。

ホテル大手が積極投資に動く背景に、各国で相次ぐ移動規制の緩和がある。タイやインドネシア、シンガポール、マレーシアなどはワクチン接種など一定の条件を満たす旅客に対し到着時のPCR検査や隔離措置を不要とした。欧州でも英国などの主要国が水際対策をほぼ撤廃し、世界で出入国の正常化が加速している。

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、22年1~3月の欧州着の国際旅客数は前年同期の4.5倍に急増。アジア太平洋着でも予約数が3.75倍となった。

ロシア問題が影

もっとも、ホテル各社の収益が新型コロナ禍前の水準にすぐに戻るとみるのは早計だ。タイではTMBタナチャート銀行の予測によると、22年の外国人観光客数は19年の1割弱の約300万人にとどまる。ホテル稼働率も約20%で19年の水準(80%)にはほど遠い。

原因の一つに感染再拡大の懸念がある。厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施している中国は新型コロナ禍までタイを訪れる旅行者の中で最も多く、19年は全体の3割を占めた。

ロシアによるウクライナ侵攻も観光需要に影を落とす。タイでは21年11月に外国人観光客の受け入れを本格的に再開してから22年1月末までの3カ月間で、ロシア人観光客は国籍別で最多の11%(約5万人)を占めた。中国が自国民の渡航制限を続けるなか、タイ以外でもロシア人観光客への期待が高まっていた。