https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE0347T0T00C22A2000000
2月1日、私立中学の最難関、開成中(東京・荒川)の入試会場に向かう受験生を小4男児と父母が見つめていた。2年後の本番に向けた「見学」という。小1からの塾通いに月10万円かける母親(41)は「東京大に受かるためなら高くない」と言い切る。
慶応義塾を創始した福沢諭吉が「門閥制度は親の敵(かたき)」と訴えたように、日本の近代教育は身分に関係なく有為な人材を育てる目的で始まった。学校は平等な機会を開く装置とされた。
塾のため塾通い
100年以上がたった現在、学校は格差構造を再生産する装置になっている。多額の塾代をかけないと難関大合格がおぼつかない現実がそれを物語る。
過熱する中学受験では、有名塾の指導についていくため別の塾に通う子も出てきた。塾代は小4からの3年間で500万円を超すこともある。
中学合格で終わりではない。東大受験指導で有名な塾は難関中合格直後の親子に「大学受験の準備は早ければ早いほど有利」とさらなる〝投資〟を促す。
結果は明確に表れる。東大合格者は私立中高一貫校の卒業生が多数を占め、学生の54%は年収950万円超の家庭出身だ。
少子化と大学増で「受験地獄」は死語となり、えり好みしなければ誰もが大学に入れる時代になった。大学入学後に燃え尽きて無気力になるなどハードな受験勉強はリスクもある。それでも難関大を目指す「合格歴競争」はやまない。
耳塚寛明・青山学院大特任教授(教育社会学)は「学歴くらいしか努力で手に入るものがないからだろう。ただし出身家庭による不平等は大きい」と話す。
子どもの貧困率が約3割と全国平均の2倍近い沖縄県。全国学力テストの成績が全国最低水準に沈んでいたのを受け2013年から小中学校での放課後補習を進めた。21年度の正答率は小学校国語で全国平均を上回るなど改善している。
米分断の一因に
しかし多額の費用がかかる大学進学は別だ。同県の21年の大学などへの進学率は41%と全国最下位で、1位の京都府とは29ポイント差がつく。学力向上を主導した諸見里明・元県教育長は「家庭環境の差を埋めるのは簡単でない」と語る。
取り残された側の不満は強い。米ハーバード大のマイケル・サンデル教授は、米国では恵まれた境遇で育ち難関大に入った「能力主義的エリート」が特権を享受し、敗れた層を見下していると指摘。軽んじられた人々の怒りが米社会の深刻な分断を生んだとする。
日本も無縁ではない。国立教育政策研究所は19年、高校生がいる世帯の進路希望を調べた。すると年収が高いほど学費の安い国公立大を志望する割合が高い傾向がみられた。年収の少ない世帯が教育機会も狭められるようでは分断が広がる可能性がある。
似た環境で育った「エリート」だけでは複雑化する社会のかじ取りは難しい。格差を研究する橋本健二・早稲田大教授は「弱者の側で物事を考えられる人材を育てなければならない」と話す。平等な機会の提供と有為な人材の育成という役割を果たせるか。学校が問われている。

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