https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL00020_Y2A420C2000000
メタバースの土地の魅力は無税であること、潜在的な価値上昇の可能性がある点、消費者のアクセスのしやすさなどを挙げている。
経済活動の中心に
かつて一世を風靡した仮想空間に「セカンドライフ」があった。やはり土地を買ったりイベントを展開したり、独自通貨が流通していたりした。
メタバースはどう違うか。様々な論点はあるが、複数の「世界」が存在していることが大きな違いの一つだろう。「ディセントラランド(Decentraland)」「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」などが代表的なものだ。
仮想現実(VR)ゴーグルを付けて仮想空間のなかでモノやサービスのやり取りをするだけでなく、NFT(非代替性トークン)や仮想通貨を活用する新たな生態系が今後、人々の経済活動の中心の一つになるとみられている。
米フェイスブックによるメタへの社名変更、マイクロソフトのゲーム大手アクティビジョン・ブリザードの買収……。メタバースへの参入を巡り、メガIT(情報技術)による華々しい動きが相次いだ。
ソニーGがシンガポールに拠点
世界の耳目を集めるメタバースだが、これまでのIT革命では後進とされてきたアジアに飛躍の芽がありそうだ。
ソニーグループのソニーネットワークコミュニケーションズはSun Asterisk(サンアスタリスク)と、NFTの開発受託、コンサルティングを担う会社を設立した。場所はシンガポールだ。実は冒頭に取り上げたメタバース不動産の投資家のシェリルさんも、シンガポール人だ。シンガポールでは国内最大の金融機関DBSグループ・ホールディングスがメタバースを通じてのサービス提供を準備している。
米コンサルティング会社アクセンチュアのデジタルマーケティング組織「アクセンチュア・ソング」のフラビノ・ファレイロ氏は「アジア太平洋地区の10人に8人の経営者が、メタバースが自社によいインパクトを与えると考え、4人がブレークスルーやトランスフォーメーションをもたらすと信じている。同地区でメタバースの発展が期待できる大きな兆候と言えるだろう」と話す。
SNS(交流サイト)分析ツールを提供するTalkwalker(トークウオーカー)の前岡愛氏はメタバースがどのようにSNSで言及されているか分析した。「バーチャル空間への慣れや興味は若年層が強い。(1990年代後半以降に生まれた)Z世代が言及している」という。若年層が多い東南アジア、特にインドネシアでの関心が強い。「東南アジアはまだオンラインに触れていない人が多い。東南アジア向けの商品開発が進む過程で、新たな創造性が生まれてくるのではないか」という。
ゲームが主役、ベトナムに視線
中国勢ではネットの巨人、騰訊控股(テンセント)やゲーム大手の網易(ネットイース)がメタバースの担い手として着目される。一方、「『アクシー・インフィニティー』を目指せ」を掛け声に、ベトナムではメタバースに発展した人気ブロックチェーンゲームの軌跡をたどろうと、様々なゲーム会社が登場し、一大産業になろうとしている。
先進国と比べて大きい人口増加、スマートフォンの急速な普及と加速するアプリ開発、ゲームが築き上げた独自の生態系、時に政府による後押し――。これらの要素が絡み合いながら、アジア発のメタバースが生まれてくる土壌は整っている。アジアを中心にメタバースにかけるスタートアップの取り組みを追う。
「仮想」不動産デベロッパーの道
仮想空間「メタバース」の活況を伝えるエピソードとして注目を集めるのが土地取引だ。すでに高額でやり取りされ始めている。仮想の土地を「海のものとも山のものとも分からない」と切り捨てるのは簡単だが、付加価値を高めることでビジネスを拡大していくコンセプトは現実の不動産と変わらない。その領域にシンガポールの有限責任事業組合(LLP)である「THEMETTAVERSE(ザメッタバース)」が挑んでいる。
メタバースを英語で書くとMETAVERSE。だがこの組織ではTをダブらせている。「仏教で普遍的な愛を意味するMETTAを名前に取り込んでいる。メタバースがグローバルで、境界を越えるという概念を持っているからだ」。ザメッタバースを創業したマネージング・パートナーのデービッド・エベネザー・トー氏は説明する。
イベント制作会社を経営するトー氏が、マーケティング業界で活躍してきたジェイ・フー氏と共同で創った。
ザメッタバースが取り組んでいるのは「メタバース版不動産業」だ。メタバース上で「土地」を購入し、それをイベントなどを開きたい企業向けに貸し出している。現在、世界最大の規模と言われる「ディセントラランド」と「ザ・サンドボックス」に合計35区画を保有する。「不動産価値」は75万シンガポールドル(約7000万円)だという。
保有する「土地」の一部はすでに開発済み。会議場やステージ、ギャラリーなどがこれまでに「竣工」している。顧客はここでイベントを開いたりできる。その利用料を払ってもらったり、中長期間にわたる場合は家賃として受け取ったりすることで収入を得る。
「土地」の保有者向けに不動産管理も手掛ける。顧客の資産を預かった上で運用や売却する。
トー氏は「土地を保有するだけでなく、長期間にわたってユースケースを積み重ね、資産価値を高められるよう企業などと協業していきたい」と話す。どのように「土地」が使われていくのか、用途を開拓していくことが価値向上につながっていく。メタバースのなかだけでミュージックビデオを作成するなどの取り組みを増やしている。
「DJパーティーやコンサートを開いてきた。シンガポール政府観光局(STB)など政府関係者や企業関係者もどんなものかと見に来てくれている」(トー氏)
今年2月に開業したばかり。売上高は初年の2022年は50万シンガポールドル、25年は500万シンガポールドルに拡大させる計画だ。
資金調達はNFTで
事業拡大には資金調達が欠かせない。ただ、LLPのため新規株式公開(IPO)などの手法はない。そこで登場するのがNFTだ。「自分たちが保有する土地を細分化し、それを裏付け資産とするNFTを発行して調達する」とジェイ・フー氏は話す。
NFTの展覧会を開くなど、NFTの普及に向けた取り組みを進めてきた。彼らは現実世界でもイベント会場を持っている。「(ブロックチェーンを活用した次世代型インターネットである)ウェブ3に関連する人々を招いて彼らとの協業の可能性を探ったり、彼らがプロジェクトを進めるのを支えたりしていく」(フー氏)。現実世界と仮想世界の融合で新たな価値を生み出していくのが彼らの目標だ。
コメントをお書きください