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コンテンツ配信に強い米アマゾン・ドット・コムや米ネットフリックスが事業を始め、米マイクロソフトやソニーグループを追う。利用者の基盤が仮想空間「メタバース」につながる期待もある。音楽や映像に続き、利用者の時間を奪い合う形となっている。
「『こねこばくはつ』のゲームとアニメを製作します」。ネットフリックスは4月19日、人気カードゲームを元にしたゲームとアニメの企画を始めたと発表した。2021年にゲームの提供を始めて以来、映像作品との共同企画は初という。
ネットフリックスは四半期ごとの有料会員数が3月末に初めて減少に転じ、成長の転機を迎えている。動画配信はアマゾンや米ウォルト・ディズニー、ワーナーメディアなどメディア大手が軒並み参入し、競争環境が激しい。集客力となる独自コンテンツの製作コストが高まる中、目をつけたのがゲームだ。
映画の場合、1つの作品の視聴が一度きりになりがちで、目的の作品を見たら「別のサブスクに乗り換え」というケースもある。ゲームの場合、同じソフトを繰り返し遊ぶケースが多く、長期の利用につながりやすい。今回のような共同企画なら、新たにアニメやゲームファンを取り込める。
ネットフリックスは3月、ゲーム会社の米ボス・ファイト・エンターテインメントの買収を発表した。ゲーム買収発表は半年で3社目。開発力を強化して動画のみのサービスからの脱却を急ぐ。
実況配信簡単に
動画分野からの参入ではアマゾンも3月、米国でクラウドゲーム「Luna(ルナ)」の提供を始めた。有料サービス「プライム」の会員なら無料で遊べるタイプから、最大月17.99ドルまでジャンルごとに6種類のプランを用意した。14年に買収したゲーム実況配信サービス「Twitch(ツイッチ)」とも連携し、簡単に実況配信ができる点を売りにする。
アマゾンは「サブスク」では、電子商取引(EC)や映像配信が楽しめるプライムで数億人規模の顧客基盤とノウハウを持つ。世界最大のクラウドサービスを運営する利点を生かし、通信の遅延が少ない技術力を売りに競争力を高める計画だ。
クラウドを使ったゲームが広がる背景には技術的進化がある。コントローラーの入力信号を巨大なサーバーに送り、データ処理をして映像を端末を通してストリーミング再生する。
映画と異なりゲームでは操作から画面が動くまでの時間差を小さくする必要があり、高速大容量の通信環境が欠かせない。今後は高速通信規格5Gの普及もカギを握る。
大手ゲーム会社もサブスク強化に動く。4月発売の人気野球ゲーム「MLB The Show22」は、米大リーグを代表する大谷翔平選手がパッケージを飾る。任天堂やソニーなど複数のゲーム機にも対応し、価格は6千~9千円程度かかるが、マイクロソフトの「ゲームパス」の会員は月850円で遊べる。
ゲームパス会員を対象にした100以上の作品は、多くは同社のゲーム機「Xbox」以外にパソコンでも遊べる。巣ごもり需要の反動にもかかわらず、ゲームパスの会員数は21年末に2500万人と1年弱で4割増え、好調を維持する。
発売初日に大作
ゲーム業界関係者が「異例」と口をそろえるのが、開発に数百億円かかった大作でも発売初日から遊べる点だ。ソフト開発企業は大作に時間と資金を投じ、百万本単位でソフトを売ることで投資を回収してきた。ゲームパスのように、月額で遊べるコンテンツの一部となれば、短期的な売り上げは期待できなくなる。
コンテンツを充実させるため、マイクロソフトは開発企業に資金面で一定の支援をしているとみられる。ファミ通グループの林克彦代表は「マイクロソフトは目先の利益を捨ててでも、ハードとソフトという旧来のビジネスモデルを崩して顧客基盤を広げようとしている」と指摘する。
「プレイステーション(PS)」など高性能ゲーム機を売りにしてきたソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)も、サブスク強化に動く。6月以降、クラウドゲーム「PSナウ」をネット対戦の定額サービス「PSプラス」に統合し、最大740作品が遊べるようにする。最新のゲーム機「PS5」は品薄が続いており、パソコンからでも遊びやすい環境を整える。
単一の作品を対象にしたサブスクも広がる。米エピックゲームズは人気作「フォートナイト」で、アイテムなどが入手しやすくなる会員サービスを展開。スクウェア・エニックスは「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」で、追加ステージなどが楽しめるサブスクを提供している。
大手ITでは、米アップルはサブスク型のゲーム「アップルアーケード」を展開。グーグルはクラウドゲーム「スタディア」を始めたが、21年に自社スタジオを閉じ、ソフトの開発をやめた。高い技術と資金力がある巨大IT企業でも自力でコンテンツを作り顧客を獲得するのは難しい。
20年度に実施した総務省の調査では1日平均のネット利用時間を16年度と比べると、平日で69%、休日で45%伸びた。休日の内訳はユーチューブなどの動画共有サービスが2.6倍の58分で最長。動画配信は18分と4.4倍に拡大した一方、モバイルを含むオンラインゲームの時間は26分で2%増にとどまる。
現代人の限られた時間を巡るコンテンツ間の競争は激しい。いかにサービスをフレキシブルに使いやすくし利用者を取り込めるかがカギになる。
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