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18歳成人のリアル(1)「ハタチまで待てない」

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60476240S2A500C2PE8000/

 

若者の起業支援を手掛けるガイアックス(東京・千代田)に1年以内の起業を条件に入社し、市場調査や計画立案に奔走中だ。

高校2年の冬、知人に誘われて参加した起業イベントで、1つのアイデアが商品化され、多くの人に利用される面白さに魅了された。目指すネット業界は技術革新のスピードが速い。「ハタチまで待てない」。有名私大進学の道を捨て、地元を飛び出した。

背中を押したのが成人年齢の引き下げだ。4月1日に改正民法が施行され、18、19歳が大人の仲間入りを果たした。保護者の同意がなくても自己判断でクレジットカードやスマートフォンの契約が可能になり、法人登記や賃貸オフィスの契約もできるようになった。

 

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「借り入れができれば一気に事業を広げられたのに」。IT企業WED(東京・渋谷)の最高経営責任者(CEO)、山内奏人(21)には悔しい経験がある。15歳で会社を立ち上げたが資金繰りが厳しい状況が続いた。金融機関をいくつも回ったが「成人になってから来てください」と何度も門前払いを受け、「未成年の壁」にぶつかった。

レシートデータをアプリで買い取り、集めた購買データを日用品メーカーなどに販売するビジネスモデルが評価され、今や従業員約30人の企業に育ったが、「ハタチより早く成人になれていれば、もっと経営しやすかった」と成人年齢の引き下げを歓迎する。

経済活動と市民生活の基本である民法の改正で新成人となった18、19歳は約200万人。16年の選挙権年齢の引き下げに続く大きな見直しで、明治9年(1876年)の太政官布告以来約140年ぶりの転換点となる。

今回の改正には、多くの意思決定を若者に委ね、少子高齢化が進む日本社会の活性化を図る狙いがある。

新成人は4月から保護者の同意なしに就職先や進学先などを決められるようになった。有効期限10年のパスポート取得や、公認会計士や司法書士などの資格取得も18歳から可能になり、裁判員裁判の裁判員にも選ばれる。首相の岸田文雄は1月、成人年齢引き下げに関する関係閣僚会合で「18、19歳の若者の積極的な社会参加を促し、非常に大きな意義がある」と強調した。

一方で、未成年者が親の同意を得ずに結んだ契約を取り消せる「未成年者取消権」は失われた。新成人が消費者トラブルに巻き込まれることへの懸念は根強い。

 

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「インターンに参加しませんか」。4月、鹿児島県に住む大学2年、太田早紀(19)はキャンパス内の食堂で、同世代の女性2人に突然声をかけられた。一見にこやかだが、インターン参加者に高額な費用や友人の勧誘を強制するマルチ商法まがいの団体があると、友人から注意されていた。

理由を付けて断ると、2人はすぐに別の学生に声をかけた。太田のSNS(交流サイト)には「副業しませんか」「簡単に稼げます」といった怪しげなダイレクトメッセージも頻繁に届く。「一度お金を払ったら取り返せない。一層気を引き締めたい」と語る。

消費者庁が4月1日に設置した相談窓口には、わずか3日間で約50件の若者に関連する相談が寄せられた。保護者からは「(子どもの所持品から)契約書のようなものが見つかった。勝手に契約してしまうのでは」といった相談もあり、得た権利と未熟さのギャップの大きさを心配する声も上がる。

消費者問題に詳しい弁護士の江花史郎は、学校などで消費者教育を充実させ「生徒同士の議論を通じて批判的な思考力を育てる必要がある」と指摘。「知識や経験不足につけ込んだ不当な契約を取り消せるよう法改正も検討すべきだ」と訴える。(敬称略)

 

 

改正民法が4月に施行され、18、19歳が大人の仲間に加わった。日本社会の活性化に若い世代の活躍が欠かせないが、不安もつきまとう。動き出した新成人の今を追う。