https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60399440Y2A420C2PPK000/
ただ今回は、輸入価格の高騰が身近な商品やサービスの値上げラッシュを引き起こす「悪い円安」の側面が色濃い。どう付き合っていけばいいのだろうか。
円相場は今月に入り、およそ20年ぶりの円安・ドル高水準を記録した。きっかけは、新型コロナウイルス後の世界的なインフレ不安とロシアによるウクライナ侵攻だ。
景気回復で先行する米連邦準備理事会(FRB)は3月から、インフレを抑えるために政策金利の引き上げに着手。欧州中央銀行(ECB)も先行きの利上げをにらんで量的緩和政策の縮小に踏み出した。一方、景気回復が遅れる日本は大規模な金融緩和政策を続ける方針を堅持し、日米間の金利差が急拡大した。投資マネーは金利が高い通貨に流れやすく、結果として円からドルやユーロへ、つまり円安・ドル高、円安・ユーロ高が進んだ。
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「悪い円安」と呼ばれるのは、円安が商品やサービスの値上げを引き起こしているからだ。エネルギーや食料の自給率が極端に低い日本の場合、原油や小麦などの大半を輸入に頼らざるを得ない。世界的なインフレで値段が上がっているうえ、大幅な円安で円に換算した時の輸入品価格が高騰。国内製品も生産や流通の過程でガソリンや電気を使うため、値上げせざるを得ない状況に追い込まれている。
円相場の長期グラフをみると、これまでも急激な円安が繰り返し訪れている。暮らしを支えるためには、円安が進むたびに節約するしか方法はないのだろうか。そこで保有する通貨の国際分散という手法を提案したい。円預金だけでなく、ドル預金やユーロ預金などにも分散させて保有する考え方だ。
冒頭に指摘したとおり、円安の影響は立場によって変わる。分かりやすいのは企業。輸出業者は海外販売で得た外貨を円に換えるため、円安が業績を押し上げる。逆に輸入業者は海外から仕入れる商品を買うために円を外貨に換えるため、円安は業績を圧迫する。実は、個人の場合も影響は様々だ。消費者からみれば、輸入品の値段が上がるので円安はマイナス。ところが外貨資産への投資家の立場だったら、円換算の価値が上がるので円安がプラスに働く。
為替市場に詳しいマーケット・リスク・アドバイザリーの深谷幸司氏は「円安で支出の負担が増すのであれば、収入も円と外貨に分散させておき、円安時には外貨で支払う方が生活防衛策として理にかなっている」と話す。円高時は円預金、円安時には外貨預金を生活費に充てる行動は、グローバル時代の新常識になるかもしれない。
それでも若い世代を中心に、外貨との距離は縮まっている。ドル建ての投資信託の残高はコロナ後の円安・株高を背景に急増しており、若い世代が米国株などに資産を移す動きが目立つ。あと10年ほどの間に、若いころに海外旅行や海外ブランドに慣れ親しみ、外貨の保有にも抵抗が小さいバブル世代が高齢層に仲間入りする。
いまは急激な円安時なので、外貨に分散させるタイミングにはそぐわない。ただ円安で暮らしが苦しくなる状況を肌で感じている今だからこそ、次の円安局面に備えて通貨の国際分散という考え方だけは身につけておきたい。
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