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増える国税庁「聞き取り調査」 簡単な質問こそ注意を

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC073V60X00C22A3000000

 

新型コロナウイルス禍で国税当局の調査官が会社などを訪れて関係者に質問したり書類を確認したりする実地調査の件数は減った。一方、文書や電話で取引の内容などを確認し、間違いがあれば是正を求める「簡易な接触」の件数は大幅に増えた。中小企業から大企業まで多くの顧客を持つ山下貴税理士に聞いた。

 

――コロナ禍後の税務調査はどのようになりますか。

「実地調査の件数はある程度、増加するだろう。国税当局は、現場で担当者の話を聞きつつ実際の契約書、領収書などを確認できる。工場なら材料の受け払いや機械の稼働状況などを見れば、その企業の実態が分かる。不正の端緒が得られることもある。納税者からすれば表面的な数字の背景に踏み込まれる深い調査だといえる」

 

「コロナ禍で実施調査は激減した。一方で増えたのが、電話などで取引や申告内容を確認する『簡易な接触』と呼ばれる手続きだ」

――簡易な接触とはどういう手続きですか。

「国税当局が文書や電話連絡などで取引や申告内容を確認し、間違いがあれば是正を求める手続きだ。例えば、ある会社で『雑費』や『手数料』などが過去の申告内容と比べ、大きく膨らんでいたとする。税務署の担当者が会社側に電話や手紙で連絡し、中身を尋ねるというイメージだ」

「回答に問題なければ、すぐに終わる。ミスが見つかれば、追加の税金を支払わなければならないことがある。個人に対して、不動産を買った時の原資や高額な医療費控除の中身を問い合わせる手紙が届くなどのケースもある。国税当局はコロナ禍の前から簡易な接触を重視してきており、今後もその傾向は変わらないだろう」

――簡易な接触への対応で気を付けることは何ですか。

「調査を拒否すれば罰則がある実地調査とは異なり、簡易な接触による調査は原則、拒否しても罰せられない。とはいえ、一切応じないことは勧められない」

「2021年6月に国税庁が発表した『税務行政のデジタル・トランスフォーメーション』では、今後の税務調査に人工知能(AI)・ビッグデータを活用すると明らかにしている。そこで求められるのは情報の深さよりも広さだ。深くても範囲を広げづらい実地調査よりも、様々な情報を幅広く、大量に入手できる簡易な接触をする方がAIの活用に向いている」

「AIやビッグデータによる調査が進んでいくと、納税者をランク付けするような問題が生じる懸念もある。国税当局は実地調査の対象を納税意識の低い企業や人に絞り込みたいはずだ。仮に、そうした納税意識の高低をAIが判定するようになった場合、簡易な接触を無視し続けていれば、納税意識が低いと判定されてしまい、実地調査の対象となるリスクにもつながりかねない」

――簡易な接触には常に応じればよいのですか。

「そうとは限らない。安易に応じると、取引先などとの間でトラブルが生じる可能性がある。例えば、取引先との契約書に秘密保持条項が入っていることはよくある。秘密を簡易な接触に応じて仮に何らかの形で国税当局に提出したことが取引先に伝わった場合、問題となり得る」

「これが実地調査の場で求められたものであれば、提出を拒むと罰則があるのでやむを得なかったなどと説明する余地がある。罰則も法的義務もない簡易な接触に基づく場合は言い訳ができない。契約関係以外にも、個人情報保護法や欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)など抵触を考慮すべき事項は多い。専門家に相談して慎重に対応すべきだろう」

――AI税務調査時代に留意すべき点は何ですか。

「国税当局の情報分析の精密化だ。例えば、あるオーナー企業の社長が会社のすぐ近くのレストランで家族と飲食し、その際の領収書を取引先との会食に要したものだとして経費にしていたとしよう。これまではよほどのことがない限り調査官は深追いしなかったが、AIはこれを見逃さないはずだ」

「家族全員の交通系ICカードやスマートフォン内の電子マネー、クレジットカードなどをAIが分析すれば、移動の記録、支払いの記録など、社長や家族の動きを手に取るように把握できる可能性がある。国税当局は電子データを積極的にAIに取り込んでいくことが予想される」

「国税当局の情報分析の精密化の中では、これまで以上に、適正申告の意識が重要になる。様々な情報の管理、国税当局への提出の是非など、納税者側も入念な準備や戦略が求められる」