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ホテル投資が回復、外資勢が強気 円安も追い風に 着工6カ月連続増、運営コスト上昇が懸念

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB18CGQ0Y2A410C2000000

 

今後見込まれる旅行需要の本格回復に備えた動きで、海外投資家の強気の姿勢が目立つ。足元で進む円安で海外勢の投資はますます活発化しそうだが、感染動向によっては旅行需要の回復が遅れ、むしろ施設の供給過多に拍車がかかるリスクもある。

京都市内に4月、高級ホテル「Genji Kyoto」(源氏京都)が開業した。鴨川のほとりという好立地に加え、内外装のコンクリートに木目を浮き立たせて和の雰囲気を出すなど、こだわり抜いたデザインが特徴だ。客室数は19で、平均客室単価の目安は5万円以上。総事業費は20億円弱にのぼる。

源氏京都の開発には香港の複数の資産家が資金を出した。資産家の一人は日本を含むアジアで不動産開発の経験があり、高い宿泊需要が見込めるとして京都での投資を決めた。この資産家は「コロナ後は高品質で衛生的な施設に長期滞在するニーズが高まる」とみる。

ホテルの新規開発は回復してきている。国土交通省によると、2月の宿泊施設の着工棟数は前年同月比87%増の183棟で、2020年4月以来の高水準になった。前年比プラスは6カ月連続だ。ホテル開発は訪日客の増加を見込んで15年ごろから盛り上がり始め、19年半ばのピーク時には月200棟超が着工していた。新型コロナが広がった20年春以降は減少基調が続き、21年初めには月100棟未満になっていた。

既存物件の取引も21年秋ごろから盛んになっている。目立つのが海外投資家による購入だ。香港拠点の投資ファンド、BPEAリアルエステートは同年11月、大阪市の約300室のホテルを取得したと発表した。売り手は東京建物で、金額は100億円超とみられる。取得とあわせて英インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)のブランドに切り替え、集客力を高める。

22年2月にはシンガポール政府系ファンドのGICが、西武ホールディングスのホテルやスキー場など計31施設を1500億円で取得すると決めた。GICの不動産部門で最高投資責任者(CIO)を務めるリー・コクスン氏は「好立地で高品質な資産を大規模に取得できる貴重な機会だ。今後増加するであろう世界的な旅行需要により、安定したリターンを期待できる」とコメントした。

小田急電鉄が売却を検討する東京・西新宿のホテル「ハイアットリージェンシー東京」(東京・新宿)の入札手続きには、複数の外資系ファンドが関心を示す。隣接するオフィスビルの持ち分を合わせた売却額は1000億円を超える可能性がある。

米国や欧州ではすでに旅行需要が回復し、ホテル投資が活発化している。不動産サービス大手JLLによると、21年の世界全体のホテル取引額は前年比2.3倍の668億ドル(約8兆5000億円)で、コロナ前の19年(730億ドル)に近い水準まで回復した。22年は21年比35~40%増え、過去最大だった15年(929億ドル)と同水準になると予測する。

海外勢は日本でも宿泊需要が回復し、ホテルの収益が大きく改善すると期待する。回復前の段階でリスクをとって投資し、稼働が安定した後に他の投資家に売却してリターンを得るといった戦略も想定しているようだ。JLLは22年の日本のホテル取引額が前年比2割増の25億ドルになると試算する。

足元で進む円安は海外勢の投資にとって追い風となる。従来よりも不動産を割安に購入できるためだ。

ただ、投資拡大には懸念材料もある。1つが新規開業が増えすぎて需給が悪化することだ。データ分析のメトロエンジン(東京・港)によると、21年10月時点の日本国内の宿泊施設数は約5万5000。コロナ前の20年1月時点の約5万2000から増えている。コロナ禍に対応した資金繰り支援策で、倒産や業界再編がほとんど起きなかったことが大きい。

政府は今のところ観光目的の外国人の入国を制限しており、解禁時期も不透明となっている。旅行需要の回復に期待するあまり過剰投資となり、宿泊施設の需給が悪化する恐れがある。

インフレの影響で光熱費や食材費など運営コストが上昇し、収益が圧迫される可能性もある。楽観的な見立てでは足をすくわれかねず、投資家は目利き力を問われている。