https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60314250V20C22A4EN8000/
リスクマネーは米株から脱出を急ぐ。QUICK・ファクトセットによれば、「バンガード・S&P500上場投資信託(ETF)」は先週18日と翌々日20日で約100億ドル(約1兆3000億円)の解約があった。
ジャパンマネーにも異変がみられる。米財務省のデータでは、日本による国債や株式などの対米証券投資は年初から2月末まで1兆1000億円の売り越しだった。米株は2021年5月以降、5兆円以上の売り越しだった。資本逃避どころか資金還流が起きている。
悪い円安が叫ばれている。だが、滞日歴が40年に上るストラテジストのピーター・タスカ氏は「日本は復活の糸口をつかみつつある」と話す。タスカ氏によるとインフレは歴史的に原材料価格の上昇から始まり、遅れて賃金に波及する経路をたどった。狂乱物価が叫ばれた1970年代以降、企業物価は82年、賃金は97年にピークを付けた。
日本はデフレに苦しんできた。円高恐怖症の企業は稼いだドルを国内に持ち帰れず、積み上がったドルは米国のバブルを支えたが、日本にはあまり役立たなかった。経常収支が赤字になれば対米資産の取り崩しを促し、国内にマネーや工場を呼び戻す契機となりうる。
モルガン・スタンレーMUFG証券の山口毅氏は「以前より広範な品目で値上げが見られる」と分析する。「物価は上がらないという社会的規範(ノルム)が変化する可能性がある」とみる。
キヤノンはいち早く生産回帰を進め、国内生産比率を65%と過去5年で9ポイント引き上げた。21年末からの株価上昇率は主要電機株でトップクラスだ。アパレル業界も一部は国内回帰に動く。生産戦略は今後の明暗を大きく分ける可能性がある。
「とりあえず5万円相当、日本円に両替した。日本に行くつもりだよ」。香港島の両替店で男性2人がこう話した。「『コロナ鎖国』を一刻も早く解除し、インバウンド(訪日外国人)消費の復活に全力でとり組むべきだ」との声は多い。
円買い・ドル売り介入には危うさが潜み、判断を誤れば日本株も奈落に沈む。海外から「デフレ体質を変えられない高齢化社会の象徴」とみなされ、急激な円高・株安を引き起こす可能性がある。物価が上がらなければ、モノとの比較で通貨は増価するからだ。
購買力平価との比較で円は「実力」以上に売られており、反転した時のスピードは速いと考えられる。さび付いたデフレ思考にとらわれず、投資家は日本の変化に着目し、政策当局は国内外のマネーを日本に呼び戻す流れを支援する時だ。

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