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家計の国外逃避論じわり 「悪い円安」があおる日本売り

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB262VS0W2A420C2000000

 

円預金の実質ゼロ金利が常態化していることに加え、「悪い円安」に伴う身近な商品の値上げラッシュが家計の円資産離れを引き起こすきっかけになるという見立てだ。企業の海外生産移転に、個人金融資産の国外逃避が加わるという思惑は、日本売りによる中長期的な円の先安観をあおる材料になっている。

4月に入り、為替市場関係者から「家計のキャピタルフライト(資本逃避)」を指摘するリポートが相次いで出されている。

「本当に恐ろしい円安リスクは家計部門の円売り」。みずほ銀行の唐鎌大輔氏はこう題したリポートで「日本人は『空気』で突然動き出す」として、個人の円売りが一気に強まる可能性を指摘する。

市場では「貯蓄から投資へ」というスローガンの下、これまで何度も実質ゼロ金利の円預金が外貨資産に向かうという思惑が浮上した。だが「オオカミ少年」のごとく、すべて掛け声倒れに終わり、円預金はずっと膨らみ続けている。

そんな「空気」が変わるきっかけになり得るのが、身近な商品の値上げラッシュを招いた「悪い円安」の到来だ。長引く円高デフレで物価が上がらない時代は、円預金が実質ゼロ金利でも安全資産として保有することができた。だが輸入物価の高騰と急激な円安を背景に、モノやサービスの値段がいっせいに上がり始めた途端、利益を生まない円預金は心もとない資産へと変わりつつある。

日銀の資金循環統計によると、2021年末時点で初めて2000兆円を超えた家計の金融資産のうち、円の現預金は約半分を占める。唐鎌氏は「その10%が外貨資産に移るだけでも、100兆円規模の円売りを招く」と話す。2021年度の日本の貿易赤字である約5兆3700億円をはるかに上回る金額だ。

JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏も、家計の国外逃避について「長年言われながら全く起きなかったが、今回は違うかもしれない」との見方を示す。

家計の金融資産の過半を保有しているのは高齢層だが、今後は海外旅行や海外製品を身近に感じるバブル世代が高齢層に仲間入りしていく。「ガソリンや輸入食品の価格高騰を賄うため、外貨の保有を増やしておいた方がいいという発想がいつ広がってもおかしくない」(佐々木氏)状況だ。

家計の国外逃避は本当に起きるのか。その答えは今後の日本経済次第。将来の日本が「やはりオオカミ少年だった」と笑い飛ばせるほどの魅力を高められるかどうかは、円高が進んでも海外から日本に投資したくなるような産業を官民で育成できるかにかかっている。ただ「悪い円安」が世の中を覆う現状では、家計の国外逃避をはやして市場の円先安観が強まる場面が訪れるのを避けられそうにない。