https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60230450S2A420C2PPN000
Aさんが関心を持ったのは「住宅取得等資金贈与の非課税制度」。父母、祖父母から子、孫が住宅の取得や増改築を目的とした資金を贈与されたとき床面積や住宅を取得する時期などの条件を満たせば、一定額まで贈与税がかからない。まとまった資金を贈与することで子や孫の家計を支援できるほか、相続財産を減らすことで相続税の節税にもつながる。
このためシニア層で関心を持つ人は少なくない。国税庁によると、利用者は15年以降で年6万人前後、非課税の適用を受けた金額は年4000億~6000億円程度で推移する。制度は21年末が期限だったが、一定のニーズがあるため22年度税制改正で23年末まで2年延長することが決まった。
ただし利用条件を満たさないと、非課税の恩恵を受けられない。制度の主な内容を押さえておこう。まず非課税枠は住宅の性能によって変わる。耐震、省エネまたはバリアフリー住宅なら子・孫1人につき最大1000万円、一般住宅は500万円までとなっている。新築、中古にかかわらず新耐震基準を満たす住宅なら対象で、マンションや戸建てといった種類も問わない。
住宅の床面積については、50平方メートル以上240平方メートル以下なら受贈者の年間合計所得が2000万円以下、40平方メートル以上50平方メートル未満は1000万円以下という条件がある。また子や孫は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であることも必要になる。
見落とされがちなのが、床面積は登記簿に記載されている面積で条件に合うかを判断すること。「不動産の販売資料と登記簿の床面積が食い違う例がある」と税理士の柴原一氏は指摘する。
床面積の計算では車庫を含む場合もあるので注意したい。例えば戸建てで1階に車庫を設ける「ビルトインガレージ」というタイプだ。「居住部分と車庫部分を一つの家屋として登記していれば、車庫も床面積に含むというのが基本的な考え方」(東京国税局)。冒頭のAさんの子どもが買う家も該当し、床面積が240平方メートルを超えることが分かったため、贈与するのを見送ったという。税理士法人山田&パートナーズの浅川典子税理士は「ビルトインガレージは都市部を中心に多く、制度を利用するときの盲点になることがある」と話す。
床面積と並んで大切なのが、住宅の取得・入居の時期などに期限があることだ。まず贈与を受けた翌年の3月15日までに贈与資金の全額で住宅取得などのための頭金や残金を支払う。マンションや中古戸建ては同日までに引き渡し、新築戸建ては少なくとも棟上げを済ませる必要がある。
入居の期限は3月15日までか、遅くとも12月31日までとなっている。また非課税の適用を受けるには贈与された翌年の2月1日から3月15日までに申告しなければならない。「期限を過ぎると制度が適用されない」(税理士の村岡清樹氏)ため、注意が必要だ。
通常は父母や祖父母から住宅資金の振り込みなどがあった時点で贈与を受けたとみなされる。住宅購入では一般に契約時に頭金、引き渡しの際に残金を払う場合が多いが、引き渡しや入居は工事の遅れなどで期限に間に合わない可能性もある。このため浅川氏は「贈与はできるだけ年末を避け、残金の支払いに近い時期にする方が非課税になりやすい」と助言する。
非課税枠の最大1000万円を超えて住宅資金を贈与したい場合は、暦年贈与や相続時精算課税を利用するのも選択肢となる。いずれも住宅資金贈与の非課税制度と併用が可能だ。例えば暦年贈与は1人当たり年110万円までの基礎控除があり、非課税で贈与する住宅資金を一定の条件で上乗せすることができる。
住宅資金贈与の非課税制度は「共有名義で物件を購入する際も利用できる」(ファイナンシャルプランナーの久谷真理子氏)。夫婦が共有名義で購入する場合、省エネなどの基準を満たしていれば、それぞれが自分の父母または祖父母から最大1000万円を受け取れる。非課税の適用を受けるには夫婦別々に申告する必要がある。親が子に資金を贈与し、親子の共有名義で住宅を取得する場合も限度額までは制度の対象だ。

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