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緩和修正、試される日銀 浮かぶ長期金利「上限」上げ 円安対処、副作用重く

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60214160R20C22A4EE9000/

 

為替と金利の両面から日銀を試している市場では、許容する長期金利の上限引き上げといった緩和修正案が浮かぶ。利上げ耐性がないなかでの金融引き締めは日本経済に重い副作用をもたらす。日銀は緩和を続ける構えだが、どこまで座視できるか。

 

日銀は27~28日に金融政策決定会合を開く。ロシアのウクライナ侵攻で資源価格が高騰。日銀は2022年度の消費者物価指数(CPI)の見通しを従来の前年度比1.1%から1%台後半に引き上げる見通しだ。ただ物価上昇は一時的として大規模な金融緩和は維持する公算が大きい。

それでも一段と円安が進めば日銀も緩和の修正を迫られかねないと市場はみている。

バークレイズ証券によると、1ドル=125円超の円安水準が定着した場合、CPIは今夏にかけて2%台まで上昇すると試算する。さらに140円近くまで円安が進めば22年中に2.5%に接近するとみる。賃上げ機運が乏しい中で物価が急上昇すれば、参院選前に日銀に対する政策修正の圧力が高まるシナリオが想定される。

修正案で最も可能性が高いとみられているのが、日銀が示す政策金利の先行き指針(フォワードガイダンス)の変更だ。現状は政策金利が「現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定」としている。ここから「それを下回る水準」という文言を削除するという見立てだ。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットアナリストは「実際に利上げしなくても日銀の緩和色は弱まり、円安抑止に一定の効果はあるだろう」と指摘する。日銀は円高懸念が強まっていた19年10月にこの文言を加えた。文言を外せば円安へのけん制になり、最も低コストの手段とみられている。

さらに踏み込むなら、金融政策の柱である長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の見直しが選択肢に挙がる。現状は長期金利を0%程度、短期金利をマイナス0.1%に誘導している。市場で浮かぶのは長期金利部分の操作手法の見直しだ。

日銀は21年3月に許容する長期金利の変動幅を「プラスマイナス0.25%程度」と明示した。市場ではこれをプラスマイナス0.5%に広げる案が浮上している。変動幅を拡大すれば日銀が指し値オペを発動する頻度は下がる。この場合、国内外の金融政策の違いを狙った円売り・ドル買いが和らぐ可能性がある。

日銀は21年3月の金融政策の点検を踏まえ、変動幅が0.25%以上だと設備投資の減少など悪影響が出る可能性があるとの立場だ。新型コロナウイルス禍が続く中で企業活動をさらに抑制することになりかねない。副作用は大きい。

長期金利の誘導目標を10年債金利から5年債金利に見直すことも考えられる。だが、誘導目標を外せば金利のコントロールが利かなくなり、10年債金利が上昇するリスクもはらむ。

長期金利の上昇は1000兆円規模に膨らんだ政府債務の利払い負担を重くする。日銀の金融緩和で、国債の発行残高は黒田東彦総裁の就任時から1.3倍に増えたにもかかわらず、利払い負担は年8兆円程度と横ばいに抑えられてきた。

3つ目のオプションは、マイナス金利政策の解除だ。円安の要因となっている日米金利差が縮小し、円安抑制効果は最も高いとみられる。ただし、住宅ローンをはじめ、政策金利に連動する金利の上昇に直結する。資源高に伴う物価高に、金利上昇による利払い負担の増加が加われば、消費者へのダメージは大きくなる。

「悪い円安」を金融政策で食い止めようとすると、別の重い副作用を招くジレンマを抱えている。「日銀が円安に対応する可能性は極めて低いが、政策の長期化による弊害を抑えるために23年秋に金融政策を見直す可能性がある」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)。無理を重ねた政策運営の矛盾が吹き出している。