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世界経済秩序の刷新を グローバル・ビジネス・コラムニスト ラナ・フォルーハー

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60198520R20C22A4TCR000/

イエレン氏は13日、ワシントンで開催された米シンクタンク、アトランティック・カウンシルでの講演で、ドルを基軸通貨とする第2次大戦後の金融秩序を定義したブレトンウッズ体制のような新たな枠組み作りや、今週春季総会を開催中の国際通貨基金(IMF)と世界銀行の改革を呼びかけた。

また、プーチン大統領のロシアがウクライナに侵攻したことと、米国をはじめ30カ国以上が実施している対ロシア制裁に中国が協力しなかったことが世界経済の転換点となったと明らかにした。

これは「米国孤立」でもなければ「米国第一」ですらない。だが、自由貿易は各国・地域が共通した価値観のもとに対等な立場で行動しなければ本当の意味では自由にならないという、政治が深く絡んだ経済の現実を認めたことになる。

これは、過ぎ去りつつある新自由主義時代と異なる部分もあれば、重要な点において似ている部分もある。

 

 

 

 

「新自由主義」という言葉が最初に使われたのは1938年にパリで開かれたウォルター・リップマン会議で、経済学者や社会学者、ジャーナリスト、実業家らが集まって世界の資本主義をファシズムや社会主義から守るための方策を議論した。

当時の状況は様々な意味で今と一致する。欧州は第1次大戦でずたずたになっていた。29年まで約10年にわたって金融緩和政策が続いたものの急激な政治的・経済的変化に対応できず、社会に深刻な分断が生じた。

労働市場や家族構成も変化しつつあった。スペイン風邪のパンデミック(世界的大流行)、インフレ、そしてその後は大恐慌やデフレ、貿易戦争に突入し、欧州の経済は壊滅的な状態にあった。

当時の新自由主義者らは世界の市場をつなげることでこれらの問題を解決しようとした。各国を超越した一連の機関によって資本と貿易をつなぐことができれば世界は無秩序に陥りにくくなると考えた。

岐路に立つ今の世界経済はもともとのブレトンウッズ体制を作り上げた新自由主義者らが直面していた状況と似ていなくはない。その出発点はレッセフェール(自由放任主義)の市場は素晴らしいという信念ではなく、極めて現実的な問題に対処することだった。

これは今の我々がいる状況と一緒だ。振り子が戻る時機はとうに過ぎていると考えるのは筆者だけではないだろう。世界の資本主義はこの20年間、個々の国の国内の課題を置き去りにして、ひたすら突っ走ってきた。

政治や経済はもとより倫理的な枠組みさえも著しく異なる国があり、そのすべてが世界共通のルールで競ってきたわけではない。こうした状況では公正で自由な市場は崩壊し始める。

新しいブレトンウッズ体制を作る過程は始まったばかりだ。だが、自由民主主義にとって大切な価値観を出発点としたのは幸先がよい。当時の人たちは戦争で引き裂かれた世界を継ぎ合わせ、自由と繁栄が保障された、安全でまとまりのある社会の実現に向けて模索した。市場だけではそれを実現できないため、新しいルールが必要となった。