· 

「路線価否定」の相続課税、最高裁判決へ 節税に影響?

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC161KE0W2A410C2000000

 

一、二審は国税当局が勝訴した。相続課税の裾野が広がり、争いとなる可能性は高まっている。なぜ争いが起き、判決は「不動産節税」に影響しうるのか。3つのポイントから読み解く。

 

・そもそも何が争いに?
・国税の「伝家の宝刀」とは?
・不動産節税に影響は?

(1)そもそも何が争いに?

今回の訴訟で争いの舞台となったのは、東京、神奈川のマンション2棟の相続不動産だ。

一、二審判決によると相続人は2012年、94歳で亡くなった父親からマンション2棟を相続した。路線価と固定資産税評価額に基づき、2棟の評価額を計約3億3千万円と算定。銀行からの借り入れを差し引き、相続人は相続税をゼロと申告した。

それに対し、国税当局は独自に鑑定し、時価を約4倍の約12億7千万円と算定し、約3億円を追徴課税した。相続人側がこの課税処分の取り消しを求めて起こしたのが今回の訴訟だ。

争いの発端は評価額の差にある。なぜ相続人(約3億3千万円)と国税当局(約12億7千万円)で約4倍の開きが出たのか。

原因は双方が利用した算定基準の違いだ。相続人が用いた路線価は土地取引の目安とされる公示地価の8割とされる。公示地価より低い理由は「年間を通じて変動する時価の事情を考慮し安全な水準としている」(国税庁)ためだ。

だが、今回は8割どころか4分の1となったことから、国税当局が「待った」をかけた。国税当局が今回使ったのが、評価額が「著しく不適当」という場合に独自に再評価できるとする例外規定だ。

(2)国税の「伝家の宝刀」とは?

例外規定は相続税法の財産評価ルールを定めた「財産評価基本通達」にある。「著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」と定める。どんな評価でも一転させる力をもつことから、国税の「伝家の宝刀」とも呼ばれる。

あまりに威力が大きいことから国税側も使用に慎重だ。新型コロナウイルス禍以前は毎年1万件ほどあった相続税の実地調査のなかで、日本経済新聞の調査によると過去11年間の適用はわずか9件。大手企業の元社長や創業家の遺族が相続などで得た非上場株の評価額を否認したケースなどで使われた。

今回は、国税庁が毎年発表している「路線価」などに基づいた評価を否定するのに使われたことが波紋を呼んだ。国税庁は通達で、路線価を相続税を算定する基準のひとつに挙げている。

背景にあるのが、いわゆる「マンション節税」だ。タワーマンションを利用することの多い都心部ではタワマン節税とも呼ばれる。実際の取得額より低い路線価などに基づいて財産を評価し、相続税を申告することで税額を減らす手法とされる。

都市部の路線価は急ピッチな地価の上昇に年1回の見直しが追いつかず、実勢価格を反映しないことがある。地域一律のため、同じ地域内でも新しく高価なマンションなどで大きな差が出やすく、国税当局はこうした節税手法を課税の公平性の観点からかねて問題視してきた。

(3)不動産節税に影響は?

相続税の額は残された財産の評価額で決まる。相続税法は評価は「時価」に基づくと定める。現金や上場株なら時価の計算は簡単だが、不動産や非上場株などは時価が分かりにくい。評価額を巡って国税当局と納税者で争いになることもある。

20年に亡くなった約137万人のうち、財産が相続税の課税対象となったのは約12万人。課税割合は8.8%に上る。割合は10年と比べて倍増し、東京国税局管内だと13.8%に上る。相続税の問題に向き合う人は増えつつある。

今回の国税当局の課税処分で使われた例外規定は「どんなケースで使われるのか、基準が不明確で分かりづらい」(税理士)という声が多い。

しかし、「基準を示せばそれをかいくぐるような節税策がはびこる」(国税当局)という懸念もあり、バランスは難しい。裁判では例外規定の適用の是非も争点になった。判決で適用の基準が示されるかも注目される。

最高裁の判決は①高裁判決を破棄するなどして自ら判決を下す②高裁判決を破棄し高裁に審理を差し戻す③上告の棄却――という3つのパターンが想定される。判断の中身によっては不動産節税対策などに影響を与える可能性もある。判決は19日午後3時、言い渡される。