https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB147LV0U2A410C2000000
ニューヨークの家賃は2桁上昇が当たり前で、住む家が見つからないといった駐在員の嘆きも聞こえてくる。
アトランタ連銀によると、3月の賃金上昇率は全業種平均が4.5%、金融とビジネスサービスは4.8%だった。人手不足はどの業種でも顕著だが、金融のような比較的高度な技能が必要な職種ほど賃金の上昇率は大きい。
金融ビジネスの根幹は有能な人材の確保だ。米銀は新人や若手行員の給与を引き上げるだけでなく、役員報酬も大幅に増やしている。JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスの上位行は2021年に賃金を平均で15%程度引き上げた。ニューヨーク州の財政トップ、ディナポリ会計監査官によると、21年の証券業界のボーナスは前年比で20%も増えたという。
青田買いも活発だ。米ブルームバーグ通信によると、自己勘定取引を手掛けるジェーン・ストリートはインターンに月額で平均1万6356ドル(約206万円)を支給する。
メガバンクの担当者はこの人材獲得を「札ビラ勝負の様相」、「未曽有の状況」と表現する。特に採用が難しくなっているのが、コンプライアンスや審査だ。事業を拡大するうえで米国の規制に精通する人材は欠かせず、フィンテックやIT企業も含めた争奪戦になっている。ある銀行の関係者は「今の報酬体系では人材確保がままならない」と打ち明ける。
投資銀行部門も人材の草刈り場だ。日本の金融機関の投資銀行部門は競争力で見劣りする状況なのに、強化をすればするほど、コストが大幅に増える懸念がある。
思わぬところにもインフレの影響は出ている。駐在員が口をそろえるのは家賃の急上昇だ。米不動産調査のストリート・イージーによると、2月のマンハッタンの家賃は前年同期比24%増の月額3405ドル(約43万円)だった。
契約更新時に200ドル以上の上乗せを要求されるのは一般的だという。コロナ禍で賃料が下がっていた時に契約した人は大幅な値上げを受け入れるか、賃料の安い物件に引っ越すかの選択を迫られている。これまでの家賃補助額では住む家が見つからず、あわてて上限を引き上げた銀行もある。
原材料費の高騰で業績を下方修正するような事業会社と比べると、日本の銀行や証券会社、保険会社への打撃は限定的で、切迫感が乏しいようにみえる。人材の獲得への対応が後手に回れば、事業拡大の急所になりかねない。世界経済の先行きに不透明感が強まるなか、インフレの影響を見極めることがますます重要な局面になってきた。
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