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国税の「宝刀」追認、最高裁判決 不動産節税に影響も

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC045BF0U2A400C2000000

 

一般的な手法

今回のケースは約3億3000万円の評価で申告された相続財産を、国税当局が約12億7300万円と再評価したことが争いの発端だった。

金額は大きいものの、複雑なスキームを使った租税回避ではなく、借入金をもとに不動産を取得して相続する一般的な手法だった。それだけに不動産業界や税理士、金融機関などの関心は高く、この日も傍聴席19席を求めて85人が並んだ。

訴訟では、国税当局が課税処分に使った「伝家の宝刀」の適用の是非が争われた。財産評価基本通達の総則6項で「著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」と規定している。

この日の判決のポイントは、この例外規定の適用について初めて判断の枠組みを示したことだ。

判決は「合理的な理由がない限り違法」として、路線価に基づく評価と実勢価格に大きな差があるだけでは「相続税法に反しているとはいえない」と指摘した。理由として、相続財産の評価基準に路線価を示しているのは法的効力のない国税庁の通達にすぎないことを挙げた。

「基準明示せず」

一方で、「租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」は例外規定の適用を追認。実質的に適用に「お墨付き」を与えた。

この考え方を今回の事案に当てはめた際、第3小法廷が重視したのは、90歳代の父親によるマンション購入について相続人らが「近い将来の相続で税負担を減らすものだと知っていた」点だ。借入金で不動産を購入することができない納税者との間に「看過しがたい不均衡を生じさせ租税負担の公平に反する」として、例外規定の適用を認める結論を導いた。

早稲田大学法学学術院の渡辺徹也教授(租税法)は「法律の文言、平等原則、実質的な租税負担の公平という概念から課税処分を適法とした判決で、行き過ぎた節税策に警鐘を鳴らした」と評価する。

判決後、国税庁は「国として主張してきたことが認められたものと考える。今後とも適正・公平な課税に努める」とコメントを出した。

原告側代理人の増田英敏弁護士は記者会見を開き「結論は率直に残念。例外規定を使う場合の基準が明示されたとはいえず、納税者は自らの税負担がどうなるか予測できなくなり経済的な意思決定が困難になる」と批判した。

過去、例外規定の適用基準や適用事例は明らかにされていない。日本経済新聞の調査で過去11年間の適用は9件にとどまるが、今回の判決でも明確な適用基準は示されず、曖昧さは残った。

資産税に詳しい松岡章夫税理士は「(例外規定が)適用されやすくなった。近い将来、相続が発生する高齢での不動産取得は気をつけるべきだ。実務としては今まで以上に鑑定を取っていくことになるだろう」とみる。

課税対象12万人

不動産を用いた過度な節税を国税当局はかねて問題視してきた。国税庁は15年に「租税負担の公平性から看過しがたい場合は(例外規定の)6項の運用を行いたい」とするコメントを公表した。

不動産経済研究所によると、21年度の首都圏1都3県の新築マンション平均価格は6360万円で、バブル期の1990年度以来31年ぶりに過去最高を記録した。大手不動産会社幹部は節税目的の需要が「一定程度ある」とし、判決について「活況の不動産取引自体を冷やす恐れがある」と警戒した。

相続税に関わる人は増えている。2020年に亡くなった約137万人のうち、財産が相続税の課税対象となったのは約12万人。課税割合は8.8%で10年と比べて倍増した。東京国税局管内では13.8%に上る。

一連の訴訟は今回の上告棄却で幕を閉じる。国税当局は今後、例外規定について恣意的な適用との疑念が抱かれないような運用が求められる。