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日本の賃金なぜ上がらない 年功序列制が足かせ/労働生産性なお低く

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60074030X10C22A4TCL000/

 

本来は企業が収益などを勘案して判断すべき賃金の引き上げに対し、政府が口を出し「官製賃上げ」をお膳立てしなければならないほど、賃上げが喫緊の課題になっている。

 

38カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)によると、ここ30年間で欧米は平均年収が4~5割上昇したのに対し、日本は横ばいにとどまる。2015年には金額で韓国に抜かれるなど、賃金が上がらず、水準も低い。

 

人事コンサルタントの城繁幸氏や一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏ら7人の識者の著『日本人の給料』は、日本人の給料が上がらない原因を論じている。

若者はなぜ3年で辞めるのか?』の著書もある城氏の論考は「低成長が続いているにもかかわらず、終身雇用・年功序列賃金制を維持している」ことを原因に挙げる。

日本では企業側の都合による整理解雇や給料の引き下げが実質的には難しい実態を踏まえ「人件費を削る必要が出てきたのに、解雇はできず、給料を下げることもできないために若手の昇給を抑える」状況が続いたことで、給料が上がらなくなったとみる。

他方、野口氏の論考は新型コロナウイルス禍で明らかになった「デジタル化の遅れ」を指摘する。政府や企業でデジタル化が遅れたことにより、1人当たりの労働生産性が低く、利益も上がらず給料も上がらないというロジックだ。

労働生産性とは、労働によって成果がどれだけ効率的に生み出されたかを数値化したものだ。日本はこの20年間はOECD加盟国のなかで「20位程度で推移」してきたものの、19年には平均年収だけでなく労働生産性も韓国に抜かれ26位になった。

同書の帯には「バブルでもデフレでも平均年収400万円台 誰が『搾取』しているのか」とある。国税庁調査によると、平均年収は1997年がピークだ。

荻原博子著『私たちはなぜこんなに貧しくなったのか』では、2019年時点でも「20年前に比べて約35万円も低い」と指摘している。バブル期以降の「平成」の間に「仮に年収500万円の家庭だったら、税金と社会保険料だけで約26万円も出費が増えている」と、「貧しく」なっている様を明示した。

年金や消費税など平成時代の経済政策の問題点を掘り下げ、高度経済成長を遂げた「昭和」を「上りエスカレーター」に例え、平成になり「『エスカレーター』がどんどん下がっていく」にもかかわらず、昭和の成功体験から向きを変えることも、止めることもできなかった政府や企業の対応を問題視した。

一方で、「令和」を生きる若者に対しては「すでに『下りエスカレーター』から飛び降りている」として、「過去のしがらみから解き放たれている世代」といい「まったく違った世界をつくっていくのではないか」と期待を寄せる。

給料が上がらない原因の論考には様々な視点があり、日本固有の問題もある。日本の将来を担う若者世代には、経済の基本も学びながら、自らの解を導き出してほしい。

ポール・クルーグマン著『クルーグマン教授の経済入門』(山形浩生訳)は、金融関係者の間でも「先進国と新興国の賃金の違いも説明されていて、標準的テキスト」として人気だ。

【さらにオススメの3冊】
(1)『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(デーヴィッド・A・メイヤー、桜田直美訳)…低賃金を考えるための基本を学ぶ。
(2)『貧乏国ニッポン』(加谷珪一)…国や個人でできることとは。
(3)『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(中藤玲)…日本を探る。