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今春、東京工業大学で3年ぶりに対面授業に臨んでいます。教える側も受講生の反応を確かめられるので手応えがあります。今回と次回は「大学での学び」についてアドバイスします。進学を考える高校生にも参考になればと思います。
「大学ではどんなことを学んでおけばよいですか」。4月になると学生たちからよく投げかけられる質問です。特に新入生は「どのように、どれだけ学んだらよいのか」と疑問を抱くのは無理もないことです。
ひと言でいうなら、「大学とは自らの学びを深める場」であるということです。大学に入るまでは、文部科学省の学習指導要領に基づいて、基礎的な学力を養うという大きな目標がありました。
大学ではその基礎学力を土台にして、疑問を持って考え抜くようにしてみましょう。受験対策のように、これだけ学んでおけばよいという範囲も対策もありません。
大学に入ったのですから、興味を持てるテーマを見つけていけばよいでしょう。知りたい、学びたいという経験を積み重ねるなかで考える力が鍛えられるのです。
そこで学生たちに大事にしてほしい学びの姿勢を3つ紹介します。
まず「視野を広げる」ことを大切にしてください。ここでいう「視野」とは、世界や社会の動きを捉える力と言い換えることもできるでしょう。
歴史や地理などは定期試験や受験のための暗記科目だったかもしれませんが、現代世界を理解するために欠かせない知識になります。
たとえば人類には感染症に翻弄された歴史があります。それを振り返ることによって、新型コロナウイルス禍を乗り越えるヒントをつかむことができるかもしれません。
ロシアのウクライナ侵攻を巡るニュースを理解する上でも、キエフ公国に遡る歴史を知り、それぞれの国の関係を知っておくことが大切です。
続いて「違いを知る」という姿勢です。大学には日本全国、海外から多くの若者が集います。生まれ育った地域や文化が異なれば、考え方も価値観も異なるのは自然なことです。
違いを否定するのではなく、その違いを受け止めることが大事です。その上で、理解し合う経験を増やしてほしいと思います。多様性を尊重する社会で生きていくためには欠かせない姿勢です。
最後に「文理の壁をつくらずに学ぶ」という姿勢を強調したいと思います。進学の際、文理のどちらに進むのか選択せざるを得なかったでしょう。理系は苦手だから文系を選ぶということもよくあることです。
ただ、どちらの知識や経験も大事だと思います。それは急速に進む技術革新とも関係があると考えています。
たとえば人工知能(AI)やICT(情報通信技術)などが生活やビジネスに浸透しています。理系出身者だけでなく、私たち一人ひとりの使いこなしが欠かせなくなっているのです。
一方でウソやデマに類するような情報が広がっていることも指摘されています。自ら情報を知る力、正確に判断する力が求められています。文理の壁をつくることなく、知識や理解の領域を広げていきましょう。
つまり、人生は学ぶ力を鍛え続けていかねばなりません。そして「世界はどこへ向かうのだろうか」という問題意識を忘れないでください。まず、チャレンジできることから始めてみましょう。
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