https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60080630Y2A410C2MM8000/
国家の盛衰を表すとされる国際収支発展段階説。資源高で貿易赤字が続く現在の日本は、海外からの利子や配当で貿易赤字を賄って経常黒字を保つ「成熟した債権国」に変貌した。貿易赤字が膨らみ経常赤字となれば最終段階の「債権取り崩し国」にいたる。産業構造の転換が進まず、老化が加速している。
老化は、さらなる円安圧力を招くリスクもはらむ。リーマン・ショック後には円が買われた。その信認を裏打ちしたのが、長期の経常黒字で積み上げた世界最大の対外純資産だった。ところがデフレ下の長期停滞にあえぐ間に資産を積み上げたドイツが肉薄する。ウクライナ危機では円は売られ、「有事の円買い」は過去のものになりつつある。
ドイツとの違いは何か。ドイツはブランド力のある高級車など高付加価値の製造業を抱える。東西ドイツ統一で豊富な労働力も手に入れた。「国内に主力製造業の生産設備が残っている。国家の若さを象徴する貿易黒字国の看板は簡単には外れない」(みずほ銀行の唐鎌大輔氏)
対して日本の産業は円安に依存して高付加価値化が進まず、1995年をピークに生産年齢人口も減少した。企業の生産拠点は海外に移り、現地で稼いだ収益の国内への還流も限られる。国内産業の競争力は衰え貿易赤字に陥りやすい。
「悪い円安」は、新たな不安の芽も育む。「家計のキャピタルフライト(資本逃避)」。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏は、企業に続いて家計の資金も海外に流れ出すと予想する。個人金融資産は2021年末時点で初めて2000兆円の大台に乗せた。このうち外貨預金を除く現預金は約半分の1000兆円強に上り、潜在的な流出リスクがある。
個人投資家の九条さん(ハンドルネーム)は米長期債などドル資産に資金を移す方針だ。「金融緩和に伴いインフレが到来するのでは」との思いは今年の円安の加速でさらに強まった。マネックス証券によると、22年3月末の米国株の預かり資産残高は約5700億円と、2年で3倍。金融資産の過半を握る高齢層には、海外旅行や海外ブランドに慣れ親しみ、海外投資に抵抗感の薄いバブル世代が新たに仲間入りする。
日本は、海外投資からの収益に頼る超高齢国家への道を歩むのか。それとも若返りを目指すのか。
英国は1980年代に「債権取り崩し国」になったとされる。経常赤字拡大の歯止めとなったのが、金融サービス事業による手数料収入だ。サッチャー政権下の規制緩和で金融立国として活力を取り戻した。
日本でも国際金融都市構想が胎動する。再びインバウンド(訪日外国人)に活路を求める道もある。50年前の第1次オイルショックは、産業界の努力で日本のエネルギー効率が急速に高まる転機となった。ウクライナ危機は世界の省エネ需要を高めるとみられ、好機を生かせるか問われる。
いずれにせよ国内産業を活性化するには円安依存の経済政策と決別する覚悟が必要だ。「悪い円安」を契機にできるかもしれない。

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