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相続、土地の節税効果大きく 「2次」踏まえ特例を活用

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60022970V10C22A4PPK000

 

一方で税務当局も注目しており、指摘を受けやすいとされる。土地を使った節税を考える場合はよく仕組みを理解し、慎重に実行したい。

 

税理士や金融機関、不動産業者などが注目する最高裁判決が19日にある。一般的な土地の評価手法を用いて相続税をゼロと申告した相続人に対し、税務当局が「時価を反映していない」として追徴課税。それを不服とした相続人が国を訴えた。この裁判が注目されるのは、相続時に土地の評価が時価より低くできるルールが広く使われているためだ。

相続税を抑えるための有効な手段は相続財産を減らすことだ。方法は大きく2つある。「被相続人が生きている間に相続人に財産を移す」ものと「相続財産を計算する際の価値(評価額)を減らす」だ。前者の代表が暦年贈与で、課税されない範囲で贈与をしておき、相続する財産を減らす。

一方で後者でよく使われるのが土地だ。相続開始時に現預金は残高がそのまま課税対象になるが、土地は評価額を時価よりも大幅に減らせることがある。相続財産の資産別保有割合をみると土地、建物の合計が約40%と高い。不動産による節税の効果は保有資産が自宅に偏る中流層にとって重要な問題といえる。

なぜ土地の評価額が減らせるのか。法律上、相続で土地は時価評価される。だが実際は時価(公示価格)の80%をメドに税務当局が設定する路線価で価値を算出する。最近では急ピッチな地価の上昇に路線価が追い付かず「地域によっては時価と路線価が大きく異なることがある」と指摘する税理士は多い。さらに一定の要件を満たす自宅の土地や、賃貸物件用の土地は評価額を大きく下げられる場合がある。

もっとも不動産による節税は効果が大きいだけに「行き過ぎた節税、租税回避の温床になるとして税務当局が注目しやすい」と岡田俊明税理士は指摘する。評価減の要件は厳しいので注意が必要だ。

代表例が「小規模宅地の評価減の特例」だ。亡くなった人(被相続人)が住んでいた自宅の土地を配偶者や同居する親族らが相続した場合に利用できる。相続税を計算する際の土地の評価額を80%減らせるため、節税効果が数百万~数千万円になることが珍しくない。減額できるのは330平方メートルまでで、土地が400平方メートルならば330平方メートルを減額し、残り70平方メートルは通常の方法で評価する。

ただ、この特例は残された配偶者らが、相続税を払うために住み慣れた家を手放すのを避けることが目的。乱用を防ぐため「適用要件が専門家でも間違うほど細かい」と藤曲武美税理士は指摘する。

例えば特例を受けられる相続人は「配偶者」「同居する親族」「別居する親族」に限られ、さらに別途要件が付くことがある。同居する親族では被相続人と「同居」し始めた時期が重要だ。被相続人が老人ホームに入居後に住み始めた場合は「同居していたとは認められない」(辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士)。一方で配偶者は長期間別居していても対象になる。

別居親族についても「被相続人に配偶者や同居する親族がいない」「相続開始3年以内に自分、配偶者、3親等内の親族の所有する家に住んだことがない」などの要件がある。同居親族、別居親族とも相続開始の翌日から10カ月以内の相続税の申告期限までに、遺産分割協議など被相続人が所有していた土地の取得手続きをする必要もある。

特例を利用する際には「2次相続も見据えて計画的にしたい」と阿保秋声税理士は助言する。1次相続とは子がいる夫婦の片方が亡くなったとき。もう1人が亡くなり、子だけで相続するのを2次相続と呼ぶ。それぞれでの相続のやり方次第で相続税の負担は大きく変わることがある。

長男、次男がいる夫婦で、先に夫が亡くなったケースでみてみよう。長男は相続前から親と同居、次男は別居で持ち家があるとする。夫の遺産は自宅の土地5000万円、自宅の建物1000万円、預貯金3000万円だ。

仮に1次相続で配偶者が全てを相続すると、相続税額はゼロにできる。相続財産が1億6000万円までは相続税がかからない、配偶者の税額軽減と、小規模宅地の特例が使えるためだ。だが、2次相続では配偶者の税額軽減は使えない。さらにこのケースでは配偶者と同居していた長男は小規模宅地の特例を使えるが、次男は対象外。「そのため2次相続で320万円の相続税を支払う必要がある」と阿保税理士は試算する。

このケースでは1次相続で相続財産の分け方を工夫すれば、1次と2次を合わせた相続税額を減らせる。1次相続では妻と長男が自宅の土地・建物を3000万円ずつ、弟が預貯金3000万円を相続する。すると妻は配偶者の2つの特例により相続税がかからない。長男も小規模宅地の特例を使うと1次相続の相続税は16万円(阿保税理士の試算)になる。

2次相続では妻が所有していた土地・建物3000万円を子が相続することになるが、基礎控除(このケースでは4200万円)の範囲内となるため相続税はかからない。同じ状況でも、相続税の総額は16万円と、1次相続で配偶者が全て相続するより300万以上減らせる。