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円安再考(中)財政と金融、蜜月の代償 膨らむ借金、政策縛る

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60072960X10C22A4MM8000/

 

 

米通貨先物市場では投機筋による円の対ドル売越額が、この1カ月で2倍近い1.4兆円に膨らんだ。ある外資系金融機関の幹部はつぶやく。「政策から見て確実に円安になるのだから、うまみが大きい」

 

13年に日銀総裁となった黒田東彦氏は異次元の金融緩和で「アベノミクス」を支え、政府・日銀は「蜜月」となった。だが円高を止めるのではなく、円安を止めるとなると、金融緩和を続ける中では協調が難しい。

「大規模緩和を進めた結果なのだから、理解されにくいだろう」。鈴木俊一財務相が「悪い円安」と言っても、為替介入を巡る財務省幹部の歯切れは悪い。円安は金融緩和の産物で、円買い介入でも長期の効果は見込めない。中間選挙を控えインフレを警戒する米政府が、ドルを安くする介入に賛同するかは不透明だ。

では金融政策の見直しで円安を防ぐのか。それをすると、財政が危うい。

財政の健全度を示す指標の1つに、国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率がある。21年時点で米国が133%、英国は108%と高い水準だが、日本は256%とギリシャを超える。10年で長短の国債残高が280兆円増えたのに金利が上がらなかったのは、日銀が国債保有を460兆円積み増して吸収したからだ。「日銀の金融政策は事実上、政府債務の穴埋めに組み込まれた」(東短リサーチの加藤出社長)

巨額の債務を抱えた財政は金利上昇にもろい。財務省の試算では金利が1%上昇した場合、25年度の元利払いの負担は想定より3.7兆円増える。「それほどの資金をどうひねり出すのか」(財務省幹部)

政府内で議論が進む物価高対策も、金融政策と財政の蜜月を試す。金融緩和を続ければ低利で国債を発行し、補助金などにまわせる。一方で円安が進み、次の物価高対策を迫られる。そんな矛盾が目の前にある。

アベノミクス下の金融緩和は当初、円安による輸出企業の収益拡大や株高で経済を支えた。一息つく間に財政出動と成長戦略で成長力を高めるはずだったが、足元の日本の潜在成長率は0.1%程度とされる。

13年1月、政府・日銀の共同声明(アコード)で政府は「持続可能な財政構造の確立」を約束したが、十分とは言い難い。財政の持続性を高め成長も促すため、新たなアコードを模索すべき時がきている。