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インフロニアが3月から実施中のTOB(株式公開買い付け)中に2割弱を取得しており、TOBが成立しない可能性もでてきた。
インフロニアがTOBを始めて1週間たった3月31日。「WK」1~3という投資ファンドが東洋建株を5.84%保有しているとする大量保有報告書を関東財務局に出した。
WKは保有比率を高め、4月14日には7日時点で19.19%となったという大量保有報告書を出した。インフロニアの中核子会社でTOB前から筆頭株主の前田建設(20.19%、3月時点)に迫っている。WKの取得価格はTOB価格を上回っており、TOB不成立を狙っているのは明らかだ。
このケイマン諸島籍のWKに資金を拠出するのが任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」であることが分かった。YFOは任天堂の山内溥元社長から相続した同社株をもとに孫の山内万丈代表が立ち上げ、運用資産は1000億円を超える。
YFOがTOBに横やりを入れる形で、東洋建株を買い集める理由の一つが価格だ。
インフロニアは前田建設が保有していない約8割の株を取得し、東洋建を完全子会社化する狙いでTOBを始めた。TOB価格は770円と、発表の前営業日の3月18日終値(599円)に3割近いプレミアム(上乗せ幅)をつけた。
それでもYFOは東洋建の経営戦略や財務状況など潜在的な成長力と比べTOB価格は安いと判断して、東洋建株の買い集めに乗り出した。YFOの関係者は「現時点ではあくまで純投資」としている。
東洋建は五洋建設、東亜建設工業に並ぶ海洋土木(マリコン)の大手だ。最近では洋上風力発電の風車施工も手がける。専用の船舶を保有し、港湾や空港での施工能力を有する業者は限られ、参入障壁は高い。バブル後に経営不振に陥った東洋建は、2000年代に前田建設の出資を受け入れた。
インフロニアの買収の狙いはそのマリコンとしての施工技術だ。傘下に本格的なマリコンを擁する大手ゼネコンはない。カーボンニュートラルで市場が拡大する洋上風力や、インフラ運営などでの相乗効果が見込めるとしている。
東洋建の13日終値は862円と、TOB価格を1割以上上回っている。インフロニアはTOBの成立条件を、前田建設保有分を除く株式の約6割(発行済み株式の46%)とする。株価がTOB価格を上回ったままでは、応募する株主が少なくなり不成立になる可能性が高まる。
インフロニアは業界で再編の先陣を切ってきた。前田建設が関連会社だった前田道路を敵対的TOBで子会社化。もともと子会社だった前田製作所と3社で21年に経営統合して持ち株会社のインフロニアになった。
この再編を主導したインフロニアの岐部一誠社長は3月、「3社統合が想定以上にスムーズに進んだことが、今回の決断につながった」と話した。東洋建を買収して、マリコンを傘下に抱えるゼネコンになることを目指している。
東洋建の経営陣はインフロニアのTOBに賛同することを表明している。ただYFO関係者は前田建設の前田道路への敵対的TOBを踏まえ、「(インフロニアのTOBが)真に友好的買収といえるのか、東洋建の長期的な企業価値向上につながるのか」と疑問を呈す。インフロニア誕生時に東洋建が加わらなかったことから、市場でも「本当は東洋建はインフロニア傘下入りを歓迎していないのではないか」(証券関係者)ともささやかれる。
YFOは、経営陣との対話を重視した友好的なエンゲージメントファンドの先駆けとして知られる米国の日本株ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズを買収したばかり。そのYFOが、筆頭株主のインフロニアによる買収で波乱なく進むと思われたTOBに、突如横やりを入れた。その真意はなにか。TOBが終了する5月9日を控え、再編の行方は混沌としてきた。

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