https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59941900T10C22A4EA2000/
企業物価と消費者物価の上昇率の「ギャップ」が広がっているためだ。ギャップの規模は米国の4倍を超え、製造業にとって最大14兆円の減益要因になるとの試算もある。
日銀が12日発表した3月の企業物価指数は前年同月比9.5%上昇した。第2次石油危機の影響が残る1980年12月(10.4%)以来の歴史的水準となった2月に続く高い伸び率だ。伸び率が5%を超えるのは10カ月連続。21年度の企業物価指数も前年度比7.3%上昇し80年度以来、最大の伸び率となった。
企業物価指数は、企業間で売買されるモノの価格変動を示す指標だ。かつては「卸売物価指数」と呼ばれていた。
企業物価を押し上げているのがウクライナ危機による商品価格の高騰と円安だ。原油、鉄くずなどのスクラップ類といった国際価格が上昇。品目別では、木材・木製品が前年同月比で58.9%上昇、石油・石炭製品は27.5%上昇、鉄鋼も27.9%上昇した。
企業は仕入れ価格の上昇を販売価格に転嫁し切れていない。日本の消費者物価上昇率は2月で前年同月比0.9%にとどまる。企業物価から消費者物価の上昇率を差し引いた両者のギャップは同月時点で8.8ポイントと80年以来の水準に拡大した。
こうしたギャップは企業収益を圧迫する。米ゴールドマン・サックスの試算によると、原油価格の上昇と1ドル=125円の円安水準がこのまま定着した場合、国内製造業にとって交易条件の悪化で最大14.1兆円の減益要因となるという。馬場直彦チーフ・エコノミストは「1975年以来で最大の悪化となりうる」と指摘する。
もっとも、原材料価格の上昇や円安がこのまま続けば、消費者物価への上昇圧力も強まる。すでに包装資材や物流コストの上昇で、消費者に近い商品にも値上げが広がっている。日銀が公表した企業物価の744品目のうち、値上がりしたのは526品目で全体の7割を占めた。
キユーピーは3月の出荷分からマヨネーズを値上げした。主力の450グラムのマヨネーズの参考小売価格が過去50年で最も高い水準となり、「3月以降は販売減も覚悟している」(同社幹部)。カルビーは6月から「かっぱえびせん」といった一部商品について、価格を据え置いて内容量を減らす実質的な値上げをする。
企業が販売価格の引き上げに二の足を踏めば、収益が圧迫され、雇用や賃金にも悪影響を及ぼす。それが個人消費を抑え、デフレ傾向をさらに強めるというのが日本経済が陥ってきた悪循環だ。そこから抜け出すことができるのか、道筋はまだ描き切れていない。主要国で比較すると、米国は2.1ポイントにとどまっている。第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは「エネルギー価格の上昇が反映され、日本ではさらにギャップが拡大するとみられる」と話す。
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