https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD04AZP0U2A400C2000000
ネット利用者がデータを共有・管理しながら運用する分散型のウェブサービスで、大手プラットフォーム企業が主導する、現在のインターネットの世界が変わるとの期待もあります。近年ブームになっているネット上の仮想空間「メタバース」とも関係が深く、表裏一体での成長が予想されます。
Web3(Web3.0)は、2000年代半ばに流行語にもなった「Web2.0」に代わるものです。初期のインターネット(Web1.0)がブラウザーでコンテンツを閲覧するのにとどまっていたのに対し、Web2.0ではソーシャルメディアに代表される双方向型のサービスが登場しました。
Web2.0はインターネットの可能性を大きく広げた半面、米GAFAなどプラットフォーム企業に利用者の購買履歴や行動履歴などのデータが独占的に集まり、利用者が知らない形でビジネスに使われるといった問題があります。
これに対してWeb3は、暗号資産(仮想通貨)の仕組みでもあるブロックチェーン(分散型台帳)技術を使い、データを特定の利用者に集めず管理する仕組みです。「スマートコントラクト」というブロックチェーンのプログラムを使えば、契約内容や取引履歴、所有権などをシステムが管理しながら、条件が整ったときに自動的に契約内容を実行できます。
Web3の具体例としては、デジタルアートに高い値段がついたことで有名になった「非代替性トークン(NFT)」、金融機関を介在させずに金融サービスを提供できる「分散型金融(DeFi)」、管理者が存在しないフラットな組織でプロジェクトを進める「自律分散型組織(DAO)」などが知られます。
Web3はNFTのようなデジタル資産を扱ったり、人が介在しないシステム運用ができたりすることから、メタバースのような仮想空間との相性がよいとされます。PwCコンサルティングの馬渕邦美マネージングディレクターは「Web3はメタバースの発展とともに進化し、約10年後には今のインターネットと置き換わるだろう」と展望します。
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Web3(Web3.0)は従来のインターネットとどこが違うのか。日本でも順調に普及するのか。デジタルビジネスの経験が豊富なPwCコンサルティングの馬渕邦美マネージングディレクターに聞きました。
――Web3をどう定義しますか。これまでのインターネットとどこが違うのでしょうか。
「Web3は『分散型でかつ公正さを実現する次世代型インターネット』と呼ぶことができるでしょう。Web1(Web1.0)は基本的にはブラウザーを使って色々なコンテンツを見る、いわば片道通行のインターネットでした。Web2(Web2.0)になると、ソーシャルメディアが登場して、SNS(交流サイト)などでユーザー同士の双方向のやり取りができるようになりました」
「Web2のソーシャルメディアなどで交わされる膨大な量の情報が、大手IT(情報技術)などプラットフォーム企業に集まることで、プライバシーや情報の自己コントロール権などの問題が生じています。これについてはプラットフォーム企業も改善策を講じてきましたが、Web2のシステムやビジネスモデルは中央集権的なものであり、限界があります」
「Web3のサービスはブロックチェーン(分散型台帳)技術を使うのが特徴です。ブロックチェーンはインターネットにつながった参加者同士が、取引データなどのやりとりを分散して管理し改ざんができないようにします。この技術によって分散型で公正なインターネットのビジネスやサービスが実現できるというわけです」
――Web1~2のインターネットの世界が、将来すべてWeb3に置き換わっていくのでしょうか。
「今後10年ほどかけて、Web3の世界に置き換わっていくでしょう。そのシナリオはインターネット上のメタバース(仮想空間)の進展ペースと併せて考えると予測しやすいと思います。メタバース関連では2025~26年くらいに仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を利用できる普及型のデバイスが登場し、通信技術も30年ころには次世代の『6G』が普及して、メタバースが本格的に普及するいわゆるバーチャルファーストの時代が訪れます。この段階でWeb 3のサービスも本格的に花開くと思います」
――メタバースはブロックチェーン技術とは直接関係がないと思いますが、Web3とどうかかわってくるのでしょうか。
「メタバースを進展させていく上での基礎的な技術やサービスが、Web3に含まれていると考えるといいと思います。Web3の代表的な用途の1つである非代替性トークン(NFT)を例に説明しましょう」
「NFTはブロックチェーン技術を使って証明したデジタル資産で、21年初めにデジタルアートが高額で落札されたことなどで注目されました。デジタルアートの唯一性が証明されることで価値がつき、ネット上で価値交換ができるようになったことがポイントです。デジタルアート以外でも、仮想空間の『不動産』を取引したり、仮想空間で活動するアバター(分身)用のファッションを売り買いしたりする際の活用が考えられます。アバターなどの所有物を異なるメタバースで共通して使用するといった相互運用性も実現できます。Web3はメタバースと組み合わせやすいのです」
――NFT以外で注目されているWeb3の用途は何でしょう。
「自律分散型組織(DAO)と呼ばれる、管理者不在の組織も注目されています。今の会社のような経営者を頂点としたピラミッド構造ではなく完全にフラットな組織でプロジェクトを進め、プロジェクトへの貢献の度合いに応じた報酬配分や、意思決定のための投票にもブロックチェーンの仕組みが使われます」
「分散型金融(DeFi)と呼ばれる、金融機関を介さずに利用者同士が直接金融サービスを提供・利用する仕組みや、東南アジアなどで盛んなブロックチェーンゲームをプレーすることで暗号資産を稼ぐプレー・トゥー・アーン(P2E)も注目されています。いずれもメタバースやバーチャルファーストの世界で本格的に普及すると思います」
――Web2では米国や中国のプラットフォーム企業が市場を席巻し日本企業の影は薄いようです。Web3で日本は存在感を示せるでしょうか。
「日本は漫画やアニメ、ゲームなどで非常に魅力的なコンテンツを持っています。これをWeb3やメタバースを活用して世界に発信できます。日本がデジタルビジネスで存在感を示すことができる機会といえるでしょう」
「ただ現在の日本の法制度や税制が、NFT取引などWeb3の実情に合ったものになっていないという問題があります。このためWeb3ビジネスのアイデアを持つ若い起業家らが、日本でなくシンガポールなど海外で起業するという現象が起きています。Web3時代にふさわしい法制度を日本も早急に整備する必要があります」

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