https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59853370Y2A400C2TEZ000/
100機以上のリースで基本合意し、2025年の導入を目指す。足元の業績は新型コロナウイルス禍の打撃で苦境にあるが、LCCのノウハウや拠点網を生かし新たな収益源に育つと判断した。東南アジアで他社の参入や都市交通の進化を後押ししそうだ。
「UAM(都市型航空交通)は新しい概念。(インフラなどの)生態系をつくる作業にも注力する」。同社のリン・リョンティエン最高安全責任者は空飛ぶタクシーの事業化へ意気込む。
25年に導入へ
同社傘下で航空事業などを担うエアアジア・アビエーション・グループは英バーティカル・エアロスペース製の電動垂直離着陸機(eVTOL)「VX4」を、アイルランドの航空機リース大手アボロンから少なくとも100機導入することで覚書を交わした。3社の共同チームが4月内にマレーシアの首都クアラルンプールで初会合を開き、25年の引き渡しに向けて準備を本格化する。
商業運転に入るためには機体の型式証明のほか、乗降・駐機インフラや「交通ルール」の整備が必要だ。バーティカルは欧州で機体認証取得の手続きを進めており、4月内にも試験飛行を始める方針。インフラや制度づくりでも、シンガポールでは当局が試験運用のための「特区」を設けるなどして、取り組みを加速している。
エアアジアの構想ではまずクアラルンプールの中心部と国際空港の間で運航する。自動車で1時間強の移動を17分に短縮し、運賃は4人乗れば1人50ドル(約6100円)未満となる見通しだ。
東南アジア以外では米アメリカン航空がバーティカルに出資し、日本航空(JAL)も機材の調達を予約するなど次世代の空のモビリティ(移動手段)で先手を打っている。ただ日米も規制の整備は途上で、渋滞が多く需要も見込める東南アジア諸国が追い上げを図っている。
東南アジアの主要航空で参入を決めたのはエアアジアが初めてとみられる。「東南アジア諸国連合(ASEAN)中に広げる」と、キャピタルAのトニー・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)は息巻く。
エアアジアはこれまで地域のLCCビジネスを先導し、インドネシアやタイにも現地ベースのLCC事業会社を持つ。これら拠点の経営基盤も生かして空飛ぶタクシーを東南アジアに広げる戦略だが、許認可やインフラに加え、足元の業績にも大きな課題を抱える。
上場廃止の危機
東南アジアのLCCは競争激化で収益の伸びがかねて頭打ちになっていた。そこへ新型コロナ禍が追い打ちをかけ、キャピタルAは21年12月期まで3期連続で最終赤字を計上。債務超過額は約60億リンギ(約1760億円)に膨らみ、上場廃止の危機に直面している。
フェルナンデス氏は黒字回復が23年になると予想しており、今期も赤字が続く見通しだ。
資本増強が急務だが、3月にはいったん固まったと発表していた5億リンギの融資枠への政府保証を、公的保証機関が却下した。「フェルナンデス氏個人などによる保証といった条件を満たさなかった」(同機関)ためで、キャピタルAは他の銀行融資を探っている。
1月に社名をキャピタルAに変更した背景には、幅広いモビリティを手がけるデジタル企業に脱皮し、新たな成長を目指すという決意があった。
実際、同社はデジタル事業への参入を加速している。20年に外食宅配、21年には配車サービスを開始。電子商取引(EC)や物流事業を拡大し、ドローンによる配達も試験導入した。自社アプリをあらゆるサービスのプラットフォームとし、空飛ぶタクシーの予約や決済も統合する戦略だ。
資金不足で投資余力が限られるなか、配車などの価格競争が激しい分野でシェアや収益力を高めるのは難しい。一方、空飛ぶタクシーは参入障壁が比較的高く、同社の専門性を発揮できる。目先の危機を乗り越えれば、長期的な成長の糧となる可能性は十分にある。
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