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日銀、緩和策見直しの条件 賃上げ・円安・総裁交代、契機も

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59823170Y2A400C2PPK000/

 

日銀が政策を見直せば金利が上がるなどして家計に影響が及ぶ可能性がある。今後日銀の動きを読む上でどのような要素に注意を払うべきか整理した。

 

日銀の政策にもいずれ変化が起きるとの観測が増えているのは、日本でも物価の上げ圧力が次第に強まり、円安も進んでいるためだ。

空気の変化はみずほ証券の3月投資家動向調査でも見てとれる。円安が急速に進む前の2月24日~3月2日の実施だが、次に予想される日銀政策の方向性について「引き締め」との回答が85.7%で「緩和」は14.3%。両者の差(71.4%)は3カ月前の前回調査より19ポイント拡大した。時期も聞いた結果では2023年末までに「引き締め」が65.0%、22年末までに「引き締め」も19.2%いた。

今の日銀が手掛ける政策は長短金利操作付き量的・質的金融緩和と呼ばれる。主に「長短金利操作」「量的緩和」「質的緩和」の3つの柱からなるが、現在最も関心を集めているのは金利の操作に修正があるかだ。そしてそれは2つのパターンに大別できる。

第1はいわゆる利上げ。短期政策金利(今はマイナス0.1%)をゼロ%などに上げるマイナス金利政策解除、あるいは長期金利の誘導水準(今は10年物国債利回りをゼロ%程度に誘導)の引き上げが該当する。両者を同時に決める可能性もある。

第2に本格的な利上げと呼ぶほどではないが、長めの金利に上昇圧力がかかりうる政策修正がある。例えば10年物国債利回りの変動容認幅(今はゼロ%の上下0.25%程度)を広げたり、長期金利の誘導対象を5年債利回りに短期化したりする措置だ。

いずれも実現すれば家計に影響を与える動きだ。分かりやすいのが住宅ローンだろう。短期政策金利が上がるなら変動型の、長期金利が上昇するなら固定型の金利が上がる可能性に注意が必要になる。最近も長期金利が日銀の容認幅の上限に向け上昇。銀行が固定型金利を上げる動きがみられた。

では政策修正があるかどうかを左右するファクターは何か。

まず利上げの有無に影響するのは何と言っても物価情勢だ。ただ日銀の2%物価目標実現と金利引き上げの関係は単純ではない点は頭に入れておくべきだ。

実際、足元で消費者物価上昇率が拡大。今春に目標に届くとの見方が多くなっているのに、日銀は利上げを不要とする。携帯電話通信料引き下げという特殊要因が弱まる上に資源高や円安の影響も加わることが当面の物価上昇の背景。コストプッシュ型インフレは消費者心理を悪化させ、企業経営にもマイナスになっている。2%が実現しても持続的と見なしにくく、利上げは不適切と日銀は見る。

日銀が利上げをするのは、人々の予想物価上昇率が上がり、賃上げも広がるといった展開になったとき。つまり2%が安定的に持続しそうな状況が実現した場合である。そうした方向への変化が見通せるなら、2%が実現していなくても日銀が動くこともありうる。

日銀が重視する人々の物価観の変化をどうつかむか。単一指標でわかるほど簡単ではないが、賃上げとも関係しそうなものとして経営者の予想物価上昇率がある。日銀が3カ月ごとに調べる数値は徐々に上がっている。3~5年後といった長めの予想が2%に向けさらに上向くかが重要だ。予想物価上昇率の指標は他にもあり、日銀の情報発信も含め確認したい。

一方、物価情勢にそうした本格的な変化が起きなければ日銀は何の行動も起こさないかというとそうとは限らない。当面、重要なのは円がさらに下落した場合だ。

足元では急速な円安などを背景に企業間のモノの取引価格を反映する企業物価指数が大きく上昇。小売り段階でも食料品をはじめとする生活必需品の値上げが目立つ。夏の参院選を控え有権者の不満が強まるなら政治サイドが日銀にも対処を求めるかもしれない。「円安が1ドル=125円を下回ってどんどん進むようなら要注意」(米金融情報コンサルタント会社、オブザーバトリー・グループ)

そうした場合の選択肢になりうるのが、本格的な利上げではないものの長めの金利に上げ圧力がかかりそうな措置である。例えば10年物国債利回りの変動容認幅拡大だ。政府が決める円買い・ドル売りの為替市場介入と同時に実施するといった工夫で、円安圧力を和らげようとするかもしれない。

1年先くらいまで見渡すなら、政治情勢にも目配りすべきだ。仮に岸田文雄首相が参院選をうまく乗り越えれば大型の国政選挙はしばらくないだろう。政策の自由度が増す。安倍晋三政権時代に始まった日銀の異次元緩和について、変化を容認するかが焦点だ。来年4月には内閣が任命権を握る日銀総裁人事もある。政策が変わるきっかけになるかもしれない。

仮に日銀が動いても、その後の連続的な政策変更は避ける可能性もある。低金利に依存して運営されている財政政策などへの悪影響を防ぐためである。「追加利上げは簡単にやらないと約束したうえでマイナス金利政策を解除するといった手法もある」(有力日銀OB)。仮にそうなら住宅ローン金利への影響もすぐに大きなものにならないかもしれない。