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文字や画像、動画のやりとりにとどまらず、デジタル空間で常につながる状態になれる音声SNSや仮想空間アプリの利用が伸びる。新型コロナウイルス下でリアルでの交流に制限があるなか、オンラインの友人関係を重視する人もでてきた。
1日4時間利用
「1日4時間は使っている」。都内の大学に通う大学生の江原昂希さんは音声通話アプリ「パラレル」の利用状況をこう語る。利用は週に4回ほどでゲームや雑談だけではなく、「大学の課題を相談しながら一緒にやることもある」。新型コロナで大学に通えず、友人がつくりづらい中、心の支えになったのがアプリでつながる地元の友人だ。
パラレルはオンライン上に部屋を作り、そこに入室して来た人たちと会話を楽しめる。コミュニケーションの中心となるのは音声だ。スマホは机に置いて、アプリを開いたまま音声会話できる。通話の安定性や音質にこだわっており、ボイスチェンジなどの音声ならではの機能もある。
江原さんのように音声通話アプリを通じて共通の趣味をもつ仲間とつながるZ世代が増えている。LINEなどのチャットアプリよりも3~10人のグループ内でゲームや動画など会話の「ネタ」となるコンテンツを共有しやすい。
パラレルは2019年夏の開始以来、1年半でダウンロード数は100万を超えた。利用者の7割がZ世代だ。人と直接会えない代わりに、SNSで友人を見つけたり遠方の友人とつながったりする。
Z世代の三宮いちるさんは「ゲームなど共通の趣味や好きなものがある分、オンラインの方がリアルよりも気が楽」と語る。パラレルで交流するのはほとんどオンラインで知り合った友人という。今では勉強や進路の相談にも乗ってもらうような友人も多い。
Z世代は「つながり」を求めてSNSを使っている。米コンサルティング会社のEYアメリカが実施したZ世代のSNS利用調査によると、回答者の8割が「家族や友人とのつながり」のために使っていた。情報収集のためは約4割、意見の拡散のためと答えたのは約2割にとどまった。
オンラインのつながりはリアルの行動にも影響を与え始めている。大学生の豊田悠真さんは外出先で時間ができると位置情報を共有できるアプリ「Zenly(ゼンリー)」を開く。偶然同じ場所に友人がいると分かると、約束していなくても合流して遊ぶこともある。地図上のアイコンから友人の居場所を把握できるため、「どこにいる?」「いま暇?」といったひと言は不要だ。自分の居場所を常に公開することになるが、「監視だとは思わない、むしろ便利ツール」と話す。
気遣いも必要に
オンラインでの深い交流が多くなり、デジタル世界でも現実社会のような「気遣い」が必要になることもある。音声SNSの「Yay!」で毎日平均5時間、オンライン上の友人と会話を楽しむ神奈川県の高校生の宮本さんが気を使うのは「リアルよりむしろオンライン上の友人」と言う。「ネットの友人関係はブロックボタン一つで終わってしまう。それが怖い」と話す。
SNSによって、Z世代の時間の使い方や人間関係も変わってきた。都内の女子大学生の三浦美輝さん(仮名)の放課後の遊び相手は大学の友人だけではない。講義が終わると、3Dアバターのソーシャルアプリ「ZEPETO(ゼペット)」で知り合った友人とバーチャル空間で待ち合わせる。自作アバターを使い、写真撮影や会話をして遊ぶ。
ゼペットは18年のリリース以来、世界で約3億人が利用し、そのうち約8割がZ世代だ。観光地などをイメージしたバーチャル空間でアバターを使って交流する。外出自粛で海外旅行ができないなか、三浦さんは「旅行した気分を味わえて楽しい」と話す。
だが、オンラインでのつながりが増えると犯罪などに巻き込まれる可能性も高まる。21年12月に発生した京都市内の女子高生が死亡した誘拐事件もきっかけはSNSだった。未成年が犯罪に巻き込まれる入り口にSNSがなっている現実はある。警察庁によると、SNSに起因する事件で、21年の18歳未満の被害者は約1800人でここ10年で約1.7倍に増えた。
近年では犯罪だけでなく、SNSやライブ配信アプリで視聴者が配信者に送金する「投げ銭(せん)」などで、金銭的なトラブルも増えた。
SNSなどのサービス提供企業は人や人工知能(AI)を使った監視や身分証による年齢確認などの対策を進める。例えば、Yay!はアプリを開いた時に表示される他のユーザーの投稿に、年齢が離れているユーザーの投稿は表示しない工夫も施す。
「朋(とも)あり、遠方より来る。また楽しからずや」と論語にあるが、Z世代には遠くの朋より、オンラインのつながりが大切になりつつある。利用する本人や保護者も注意しながらSNSと向き合う必要がある。

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