https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2325X0T20C22A3000000
世界最大規模の投資会社、米ブラックストーン・グループがファンド資金の調達を加速している。2023年夏までに総額1500億ドル(約18兆円)を投資家から集める計画だ。
――ロシアによるウクライナ侵攻は投資活動にどう影響しますか。
「人道危機の早期解決を願っているが、いつ終わるのか私たちには分からない。経済的な影響として、まずインフレが挙げられる。すでに商品価格に上昇圧力がかかっており、侵攻によって一段と悪化している。特に欧州経済への影響は大きい。ガスの多くはロシアから輸入されているほか、金融機関の東欧やウクライナ、ロシアに対する与信残高が(他の地域に比べて)大きいからだ」
「(合併や買収など)取引に関わる人たちが、立ち止まるきっかけになっているかもしれない。企業間取引は短期的に減速している。一部はロシア問題に関係しているほか、21年末からの不安定な株式相場の影響もある」
「もっとも(新型コロナウイルスの感染が急速に広がった)20年3月や、(リーマン・ショックのあった)08年9月とは異なる。市場が混乱したり、銀行が手を引いたりしていない」
「ブラックストーンはロシアに本社を置く企業に直接投資をしていない。ロシアに若干の従業員を抱える企業はあるが、ロシア関連のエクスポージャー(リスクにさらされている保有資産の割合)は極めて限定的だ」
――プライベートエクイティ(PE=未公開企業投資)ファンドの新規立ち上げなどで1500億ドルを集める計画を公表しました。資金の出し手である年金や富裕層は、ウクライナ危機で慎重になっていませんか。
「資本調達能力には自信がある。過去35年間、PEや不動産ファンドを通じて年率16%のリターンを投資家にもたらした。足元で株価は下落したとはいえ、コロナ前に比べれば、かなり高い位置にある。投資家は(PEや不動産といった)代替資産の運用実績に満足しており、さらに資金を振り向けようとしている」
――今後の投資環境を見極めるうえで、何を最も懸念していますか。
「世界的な景気刺激策は需要と流動性の急増につながった。これにエネルギーや住宅、労働市場の構造的な不足が重なると、物価が上昇する。あらゆる種類の商品やサービスの価格が上がっており、中央銀行はこれを減速させるためにさらに積極的に動かなければならないだろう」
「私の想定する基本シナリオではないが、物価高が止まらない一方、経済活動が停滞する、ちょっとしたスタグフレーションのような環境に陥るリスクがある。現在、高いインフレが起きているものの、米国ではかなり力強い成長が続いており、(インフレは)管理しやすい状況にある」
――インフレや景気の先行きが不透明になるなか、有望な投資先を見つけるのは一段と難しくなりませんか。
「投入コスト上昇の影響を受けやすい工業・資本財関連への投資を比較的少なくしている。一方、私たちは大きなテーマを重視し、(各トレンドから利益を得られる)『良い地域』に投資することを狙っている。テクノロジー関連やライフサイエンス、サステナビリティー(持続可能性)関連といった、コスト高の影響を受けにくい企業に資金を振り向けている」
「短期間で収入の得られる建設済みのハードアセットを買いたい。当社で保有している交通インフラでいえば、米国の最大規模の湾港事業、米欧の道路や休憩所などが該当する。不動産なら物流施設のように賃貸契約期間が短く、価格決定力のある分野が有望となる」
「資産価値が上がるか下がるかは、キャッシュフローと(将来利益を価格に織り込む)倍率という2つの要素だけで決まる。金利が上昇する環境で倍率は高まらない。キャッシュフローが増加する事業や資産を購入する」
――ブラックストーンは近年、グロース(成長)企業への投資に力を入れてきましたが、インフレや金利上昇は逆風になりませんか。
「黒字化の予定がずっと先にある投機的な企業にとって、厳しい環境といえるかもしれない。コストがかからず、利益率の高いビジネスであれば問題ない。例えばデジタル決済ビジネスや消費者向けインターネット事業などだ」
――アジア太平洋地域での投資を拡大しています。
「このほどアジアに特化したPEの2号ファンドを立ち上げた。調達規模は1号の3倍近い64億ドルに達した。(世界中の企業を買収する)グローバルファンドと共同で投資するので、110億ドル近いバイイングパワー(購買力)を持っている。アジアでの不動産投資も拡大する予定だ」
――アジアと米欧で投資戦略に違いはありますか。
「ブラックストーンはテーマ型アプローチの大規模投資家であり、テーマの大半はグローバルなものだ。同じテーマを米欧、アジアで追求している」
「例えば買い物や教育、ヘルスケア、ゲーム、デジタル決済など、生活のあらゆるものがオンラインに移行している。インドで電子商取引(EC)物流を担うエクスプレスビーズに出資したほか、日本ではデータセンターに投資した」
「私たちはコロナ後の旅行復活を強く信じている。オーストラリアのカジノ運営大手クラウン・リゾーツ買収は良い例だ。近鉄グループホールディングスからは日本のホテルを買収した。旅行者のためにビザ取得を支援する企業にも投資した」
「世界中で住む場所が不足しており、住宅は大きな投資テーマとなっている。ブラックストーンは日本では100億ドル以上の不動産を所有しており、うち半分以上は東京や大阪などの賃貸住宅だ」
――外資系ファンドによる日本の不動産投資が活発になっています。なぜ今、日本にマネーを振り向けているのでしょうか。
「私たちは日本での物流施設に注目している。日本のEC普及は世界に比べて少し遅れており、発展する余地がある」
「他のファンドとの違いは、不動産分野とPEで大規模な投資ビジネスを有していることだ。日本企業は事業に加えて、不動産も多く所有している。私たちは両方の要素を理解しており、競争力につながっている」
――中国では昨年、当局による突然の規制強化がマーケットを揺るがしました。米中摩擦も続いています。長期投資先としてなお有望でしょうか。
「中国の長期的な人口・経済見通しを考えれば、世界最大の経済規模に成長することは明らかで、投資機会も出てくる。ただ短期的には、コロナの影響でまだ閉鎖的であったり、住宅や資本市場に課題があったりするなど、いくつかの逆風に直面することになる」
「投資する業種を選別する際には、中国国内の経済に重点を置いている。私たちが投資してきたのは主に不動産で、物流倉庫が中心だ。オーストラリアやインド、日本、そして中国で、こうした資産を購入してきた」
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