https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB280RO0Y2A320C2000000
ほとんどの投資の教科書には「分散投資の重要性」が述べられており、これ自体について異を唱える人はあまりいないだろう。
もちろんウォーレン・バフェット氏のように「将来にわたって利益成長できる銘柄を集中して長期保有する」ことが一番大きな収益を得る方法だというのもその通りだが、それにはリスクを負う覚悟が必要だ。シニアと言われる年代になってくるとあまり大きなリスクは取りたくないという人は多いだろう。
ただ、投資における分散投資の意味やその方法については意外と勘違いをしている人も多い。実は「資産管理における資産分散」の意味と「投資における分散投資」のそれとでは、明らかにその意味と内容が違うのだが、それを混同している人が多いように思われる。
どちらもリスクを軽減するという意味においては同じなのだが、リスク自体の意味が資産管理の場合と投資の場合とでは全く異なるのだ。
資産管理におけるリスクというのは、資産の価値が毀損することだ。もっと平たく言えば"損をすること"と言い換えてもよい。これに対して投資のリスクというのは結果が不確実であることであり、リスクの大きさというのはそのブレ幅の大小のことを言う。
「結果の不確実性」とは
よく評論家や金融機関の人がセミナーなどで「リスクとは損をすることではありません。結果がブレることを言うのです」と説明するが、それは投資におけるリスクの概念としては正しい。しかしながら、一般の人は「結果の不確実性」といってもあまりピンとは来ないだろう。やはり"リスクとは損をすることだ"と考えている人がほとんどだと思う。
そして実はその考え方も資産管理においては決して間違ってはいない。自分の持っている資産が何らかの形で価値がなくなってしまうことがリスクなのだ。このリスクの違いを正しく理解していないと分散投資における勘違いが起こってくる。
よく「ひとつのかごに卵を盛るな」ということわざが分散投資の例えとして使われることが多い。卵を入れるかごをいくつかに分けておけば、その内のひとつがひっくり返っても全体がダメになることはないが、全てひとつのかごに入れておくと、ひっくり返ってしまったら全部ダメになってしまうので、分けておいておく必要がある、という例え話だ。
しかしながら、筆者はこの例えが投資における分散投資を勘違いさせる原因のひとつだと考えている。
前述のように、資産管理を行う上で自分の資産が毀損することを避けるということであれば、このことわざは正しい。よく財産三分法ということが言われる。それは現預金、有価証券、不動産に財産を分けなさいという考え方だ。これは言い換えれば「流動性」「収益性」「安全性」のバランスを取りなさいということだ。
現預金は流動性と安全性は高いが収益性が劣る。不動産は流動性に難がある。有価証券はケース・バイ・ケース、といった具合にそれぞれ異なるタイプの資産に分けておくこと、そしてさらにはその中でも複数の物件や金融機関に分けておくことによって財産の毀損が防げる可能性が高くなる。
これがまさにことわざどおりの意味であり、資産管理におけるリスクを防ぐということなのだ。つまり「お金の置き場所を分けておく」ということだ。
一般的な人がリスクと聞いて思い浮かべるのがこれだ。例えば学校を受験するときに一校に絞らず、いわゆる滑り止めも含めて複数校受験したり、万が一に備えてプランBを用意しておいたりするというのがそれで、我々が生活をする上での感覚にピッタリくる。だから「ひとつのかごに卵を盛るな」という例えはわかりやすいし、誰に対しても響く。
相関関係「負」にしてリスク減
ところが投資におけるリスクというのは全く意味が違う。結果の不確実性がリスクであり、それが大きくなってしまうと収益の予想は困難になる。だから結果の安定性を求めるのであれば、分散投資することでこの「不確実性のリスク」を小さくする必要がある。
そのために必要なことは何かというと、単にお金の置き場所を分けることではなく、価格変動の性質が異なる対象に分散して投資をするということだ。もっと正確に言えば「相関係数が負になるように分散する」ということである。少しややこしいがどうしてそうなるのかを考えてみよう。
相関係数というのは2つの異なる銘柄間における値動きの法則性を表すものである。例えばAとBという2つの銘柄があり、Aが上がれば逆にBは下がるという性質があれば、それは「負の相関関係にある」となる。分散投資に効果が現れるのは「負の相関関係にある」時だ。
具体的に実際の数字で見てみよう(上の図表を参照)。例えばここに銘柄Aという株式がある。これは期待リターンが5%で、リスクが10%となっている。簡単に言えば、平均的に想定される利益は年率5%だが、そのブレ幅はそこから上下10%、すなわち一番良い時が15%で一番悪い時はマイナス5%となる。一方、もう一つのBという銘柄は期待リターンが10%でリスクが20%となっている。
次に、このAとBに半分ずつ投資したとしよう。AとBが全く同じ方向に同じように動くのであれば、リスクもリターンも単に足して2で割ればよいのでリターンは(5%+10%)÷2=7.5%で、リスクは(10%+20%)÷2=15%となる。
ところがAとBが全く逆の動きをすると仮定した場合はどうなるだろう。リターンは足して2で割るのは変わらないがリスクは全く変わってくる。Aが上がるとBは下がるのだから(10%+▲20%)÷2で▲5%、逆にAが下がってBが上がると(▲10%+20%)÷2で5%となる。マイナスとプラスに分かれるがリスクというのはブレ幅のことなので、どちらもその幅は同じだ。
つまりAとBが全く同じ動きをするならリターンは7.5%でリスクは15%だが、全く逆の動きをするのであれば同じリターンでもリスクは5%ということになる。結果として値動きの性質が正反対のものを組み合わせることでリターンは同じでもリスクは3分の1になるということだ。
実際にはもう少し複雑な計算が必要になるし、完全に同じ動きや逆の動きをするケースはほとんど無い。わかりやすくするためにあえて極端なケースで説明しているが、原理は同じだ。
シニア層はリスク管理が肝心
数字だとわかりづらいかもしれないが、円高と円安の場合を考えてみれば直感的に理解しやすいだろう。円高は輸入産業にはプラス、輸出産業にはマイナスに作用する。円安の場合は逆だ。つまり為替がどちらの方向に向かっても極端な差が出てこないよう両方を組み合わせて分散投資をすることが必要だ。同じ輸出産業の中で分散しても、これはあまり意味がない。
前述したように本当に大きな収益を狙うのであればむしろ積極的にリスクを取る必要があるので、1つの方向性に賭けることが必要だが、一般的にシニア層ではあまり大きなリスクを取るべきではないだろう。であるなら、資産管理における「お金の置き場所や資産カテゴリーを変える」ことによるリスク分散同様、投資におけるリスク分散も正しい理解のもとにおこなうことが大事だ。

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