https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59775710X00C22A4KNTP00/
両国の政府がこのほど発表した2021年の出産動向の統計でいずれも前年実績を下回り、少子化が加速している。両国に共通する構造的な問題は、性別役割分担意識の強さが女性に結婚・出産をためらわせる元凶になっていることだ。
尹氏は選挙期間中に、これまで女性の地位向上に聯合・共同取り組んできた女性家族省の廃止を公約に掲げた。韓国も日本と同様に昨今、女性活躍を強力に推し進めている。それに若い男性は「女性を優遇しすぎだ」「男性に対する逆差別だ」と不満を募らせていた。若い男性の票を狙った公約が、若い女性の支持を遠ざけた。
女性活躍施策に関する男女の対立構造は少子化問題にも影響する。選挙戦中の2月に韓国統計庁は21年の合計特殊出生率が過去最低の0.81(暫定値)に落ち込んだと発表した。OECD加盟国で最下位、1.0を下回るのは4年連続だ。住宅価格の高騰や重い教育費負担に加えて、家庭かキャリアの二者択一を迫られる現状に韓国女性が結婚・出産に「ノー」を突きつけた結果ともいわれている。
日本経済新聞は16年に韓国の中央日報と少子化に関する共同意識調査を実施した(20~40代の男女、両国で各約1000人が回答)。「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という考え方に両国とも約4割が賛成した。「女性は仕事より子育てを優先すべきだ」とする人も、日本で38%、韓国で40%に上った。
韓国では「男性が家計の主たる稼ぎ手であるべきだ」という価値観が男性も苦しめている。韓国では結婚前に男性側が住まいを用意するという慣習がある。ただ、ソウル市を中心に都市部で住宅価格が急騰し、若い男性の収入では満足な住まいを準備できない。それが男性に結婚をためらわせる一因になっている。
家事・育児などの無償労働に1日当たり、どれだけ時間を割いているか。OECD調査(20年)では日本は男性41分に対して女性224分、韓国は男性49分、女性215分だ。女性は男性と比較して日本は5.5倍、韓国は4.4倍も家事・育児等に時間を費やしている。OECD平均1.9倍を大きく上回り、男女の不均衡はOECD加盟国の中でも突出している。
経済発展に伴い共働きが広がるのは自然の流れだ。欧米など性別役割分担意識が強くない国は、職場でも家庭でも男女それぞれが応分の役割を果たすようになり、スムーズに共働き社会に移行した。
日韓の事情に詳しい横浜国立大学の相馬直子教授は「性別役割分担が残る社会では共働きとの齟齬(そご)が生じて、女性は合理的な選択として子どもを産まなくなるといわれている。まさに日韓はその状況に陥っている」と説明する。
日本は4月以降、男性が育児休業を取得しやすくするために育児・介護休業法を順次改正する。ニッセイ基礎研の金氏は「尹錫悦氏は大統領選で勝ったとはいえ、『国民の力』は国会では野党。次期総選挙で過半数の議席を獲得するためには若い女性票を取り込む必要があり、女性向けの政策を拡充してくる」とみる。
性別役割分担にくさびを打つ政策をどれだけ早く実行できるか。少子化が加速している日韓両国に残された時間は少ない。
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