夫婦別姓、四半世紀の不実 いつまでも続く「検討」解決見えず 若者の意見反映必要

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59653410S2A400C2EA1000/

 

英国のカーレーサーであるルイス・ハミルトン氏は先日、自分の名に母親の旧姓(ラルバレスティア)を加える予定だと明らかにした。両親は彼が小さいときに離婚しているが、母や母の家族を大切に思うのだろう。「私は、結婚すると女性は名前を失うという考えは完全には理解できないし、母親の旧姓がハミルトンの名前と共に続くことを心から望んでいる」と続けた。

 

条約で流れ一変

 

日本同様、海外でもかつては妻が夫の姓に変える夫婦同姓が一般的だった。流れを変えた一つのきっかけは1979年に国連総会で採択された女子差別撤廃条約だ。男女平等を実現するため各国は法律や制度を改め、夫婦の姓については選択肢を増やした。同姓か別姓かを選べるだけではない。夫婦それぞれの旧姓を組み合わせる「結合姓」や、新しい姓をつくることを認める国もある。

日本も85年に同条約を批准し、96年には法相の諮問機関である法制審議会が民法の一部を改正する法律案要綱を答申した。結婚に関わる主な内容は(1)婚姻年齢を男女18歳に統一(2)女性のみに課せられている再婚禁止期間の短縮(3)非嫡出子の相続分差別の廃止――そして(4)選択的夫婦別氏(姓)の実現――だ。

婚姻年齢は4月から男女とも18歳になった。半年だった再婚禁止期間はすでに100日に短縮され次の段階に移っている。非嫡出子の相続分差別も廃止された。選択的夫婦別姓は四半世紀を過ぎた今も進まない。

内閣府が3月25日に発表した「家族の法制に関する世論調査」によれば、現行の夫婦同姓維持を望む人は27%で選択的夫婦別姓を導入した方がよいとする人は28.9%。旧姓の通称使用の法制化を支持する人が42.2%と意見が分かれた。今回は設問を変えており、世論の変化が読み取りにくくなっている。会見した法務省の担当者は「なお国民の間には様々な意見があり、引き続き制度のあり方について検討を進めていく」と説明するが、その検討は一体、誰がいつまで続けるのか。

 

割れる司法判断

 

男女平等な社会を実現するため5年ごとに作成される「男女共同参画基本計画」で夫婦の姓のあり方については"検討"の文字が引き継がれ、最新の第5次では最終段階で突如「選択的夫婦別姓」の文言が消えた。司法の場では最高裁裁判官の判断は割れている。このままでは解決の糸口が見いだせず、対立が深まっていく懸念が大きい。

婚姻件数は減少傾向にあり、今や戦後ピーク時の半分以下。人口減も一因だが未婚を選ぶ人が増えている。この傾向は続き、2040年には男性の50歳時未婚率が3割になるとの予測もある。内閣府によれば20年に結婚した約53万組のうち4分の1以上の約14万組は再婚だ。親が離婚した未成年の子どもは年に20万人程度生じている。

一人っ子が多い時代、結婚によって実家の名前が消滅するという現実に向き合う若者は少なくない。ハミルトン氏のように、両親の名前を大切に残したいと思う人もいるだろう。若い人は同性婚についても関心が高いようだ。

時代と共に結婚や家族の形は変わる。これからの社会を形作るのは今の若者だ。ならば若い世代を巻き込んだ"検討"が必要だ。世論調査の結果も、年代別では違って見える。少子高齢化が顕著な社会では、放っておけば若者の意見は反映されにくく、年配者中心に議論が進んでいく。

1996年当時、法制審議会の幹事だった小池信行弁護士はこの1月に日本記者クラブで会見し「国会に法案を提出して、2~3年かかってもオープンな場で議論してはどうか。地方でも公聴会を開いて意見を聞く。そうすることで賛成派がなぜ賛成し、反対派がなぜ反対するのか国民の目に明らかになってくる。それによって世論が形成され、最終的には世論で決めるのがフェア」と提案する。

世論調査では「姓を変えたくないという理由で婚姻の届け出をしない人がいると思う」と回答した人が81.7%に達した。法律が時代遅れになる前に、議論にも見える化と若返りが必要だ。