https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2413K0U2A320C2000000
内装材商社大手サンゲツは、ほぼ全ての製品価格を4月1日の受注分から一斉に値上げする。安田正介社長への取材を基に、内装材高騰の原因をひもとく。
半年間で2度の値上げ
「壁紙なんてどこでも買えると思っている人は多いかもしれないが……」。オンライン取材の画面越しに現れた安田社長の声は、言葉遣いこそ冷静だが、奥で熱を帯びているように聞こえた。
壁紙で日本国内のシェア約5割を誇るサンゲツは、壁紙や床材など同社が取り扱う商品約1万2000点のほぼ全ての価格を、4月1日受注分から18~24%値上げする。2021年9月にも13~18%値上げしており、わずか半年でさらなる値上げに踏み切る格好となった。
サンゲツは山月堂商店を設立した1953年以来、今回を含め6度しか値上げしていない。半年間で2度の値上げは異例だ。
主原料が高騰、ウクライナ侵攻で追い打ちも
内装材の高騰を引き起こした原因は、供給網の各段階にある。内装材の供給プロセスは、大きく3段階に分けられる。(1)原料調達と素材の製造(2)内装材の製造(3)現場への運送と施工──だ。
低価格競争が危機を招いた
原料や燃料の高騰が続くなか、製造過程の(2)で示した内装材の製造では、低迷する製品価格がメーカー・商社の首を絞めている。
安田社長はこう話す。「そもそも日本の内装材は施工費を含めても非常に安い。海外の建築関係者に日本の内装業界について説明すると、『ペンキ屋が塗装するよりも内装施工者が壁紙を貼る方が安いなんてあり得ない』と驚愕(きょうがく)していた」
サンゲツによると内装材価格は90年代半ばに急落して以降、20年以上ずっと低迷している。内装業界で過当競争が続いたことや、安価な建て売りの戸建てを供給する「パワービルダー」の台頭で壁紙単価の下落と廉価版製品へ移行が進んだことが原因だ。
低い収益性は市場からの退場を迫った。ビニール壁紙に関してはこの10年でメーカーが相次いで撤退・廃業した。残ったメーカーは需要をまかなうため、「3直4交代制・土日勤務のような無理な体制で製造している状況だ」(安田社長)
(3)で示した現場への運送や施工では、建設工事における内装工事の立ち位置の特殊性が障壁になっている。
内装材の物流や施工は、「即時性」が求められるという特徴を持つ。住宅や店舗など小規模の建設工事の場合、内装材の注文を受けるのが施工する1~2日前のようなケースもあるという。建築の躯体を施工している際に内装材を保管しておくスペースを現場に確保できないことや、なるべくロスを少なく注文しようとすることが理由だ。
この特性に応えるため、サンゲツは国内11カ所の物流拠点を設け、商品約1万2000点を全て在庫にしている。東京23区では、午前10時半までに注文すれば、午後2時に出荷。多くの場合は代理店を通し、午後5時ごろには現場に納品する。
注文から出荷までの間に膨大な手作業をこなす必要がある。壁紙の場合、サンゲツでは10センチメートル単位で注文を受ける。同社はメーカーから50~300メートルのロールで入荷しているため、注文から出荷までの間に注文に合わせてロールを手作業でカットし、梱包する。1日の出荷点数は約6万点にのぼる。
安田社長は「内装業界全体がもうからない中で今の配送体制を維持することが困難になりつつある」と話す。
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