https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59317370T20C22A3TCR000/
同社の売上高を日本の物価、賃金と比較してみよう。日本のモノの値段や給料はここ30年、低迷が続いた。主要国との内外価格差が鮮明になり、「安いニッポン」などと呼ばれることも増えた。
経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、日本の賃金(名目)は1991年から2020年(直近の公表値)まで29年間、伸び率がわずか4%だった。年収500万円の人なら、520万円にしか増えなかった計算だ。
一方、米国は91年から賃金は20年まで毎年3.2%の複利で増えたということであり、前段の年収をベースに為替変動抜きで試算すれば、約1250万円と2.5倍だ。
パナソニックの売上高は日本の物価、賃金と同様、ほぼゼロ成長だ。世界の成長についていくことが難しかったのも当然である。
今後もそうしたペースが続くとどうか。アマゾン、ソニー(ゲームだけでなく、全社として計算)、パナソニックがそれぞれ10兆円を起点に28%、13%、0%の複利で売上高を競ったとする。アマゾンは30年後に1京6455兆円、ソニーは391兆円となるが、パナソニックは10兆円のままだ。京の大台を超える売上高が現実的かどうかはともかく、それが複利による成長の差なのだ。
アマゾン・ドット・コムの売上高はこの20年、複利で毎年28%も増え続けている。それに気づいたソニーグループも、ゲーム事業から経営を転換した。22年3月期まで10年間の同事業の売上高は平均13%の複利で伸びている。
関係者によれば、パナソニックは最近、「ダイナミック・ケイパビリティー(以降、DC)」という経営手法に関心を示しているという。これは変化の兆しかもしれない。
DCは1990年代に米カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・ティース教授が提唱した考え方だ。企業が社会の変化やリスクに対して「自社の資産を組み替えつつ、不断の経営改革を続ける姿」を指すとされる。
相対する概念が「オーディナリー・ケイパビリティー」で、これは従来の経営を磨き続ける日本の「カイゼン」と似ている。そうした考え方をよりわかりやすくまとめたのが、ティース氏の友人であるチャールズ・オライリー氏が「探索と深化」(新と旧)の両立を唱えた著書「両利きの経営」だ。
売上高は20年度で約1200億円だが、ソニーのゲーム事業のように13%の複利で伸ばし続けることができれば、30年後は4兆6939億円になる。同社全体への波及効果も大きいだろう。日本を映すパナソニックの本気度が試されそうだ。

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