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ウクライナ避難民、遠い故郷 父・夫案じ涙 70人超来日 異国の暮らし、見えぬ先行き

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59250250Z10C22A3CM0000

 

首都キエフ市に住んでいたエレナさん(仮名、42)は今月12日、東京都に住む姉を頼り、母のガリーナさん(同、65)と20歳、13歳の娘2人を連れて来日した。「日本へたどり着いたときは、本当にほっとした」と話す。

 

ロシアが侵攻するのでは――。緊迫感が高まり始めた2021年末ごろから、国外への避難ルートを模索した。スーツケース2個を抱え出国したのは侵攻前日の2月23日。たまたま席を確保できたエジプト行きの航空便に身を委ねた。

エジプトの日本大使館を通じ、姉が暮らす日本での最長90日間の在留資格を取得できた。エレナさんら4人は姉が家族3人で暮らす都内のアパートの一室に滞在し、リビングルームなどに布団を敷き眠る。

自分たちの身の安全は確保できた。だが「国を守るために戦いたい」などとしてキエフ近郊に残った高齢の父や、夫の安否を思うと胸が締め付けられる。

戦況の悪化を考慮し、自分たちはしばらく日本で暮らそうと思う。ある不動産会社の厚意で、近く都内の一室に無償で住めることになった。キエフでは運送会社で働いていたというエレナさん。「業界にかかわらず、どんな仕事でもやる」と話す。

大学で法律を学んでいた長女(20)は6月に卒業を控え、さらに米国へ留学する計画もあったが、侵攻により立ち消えに。「もはや卒業できるかもわからない。全てが奪われた」。うつむきながらも、日本で母らと共に働き口を探す覚悟だ。

13歳の次女が学び続けられるかどうかにも悩む。ウクライナで通っていた学校は14日にオンライン授業を開始。教員が自宅や避難先から配信し、日本時間夜にスマートフォンを通じて受講する。被害が拡大するなかで、配信が今後も続くかは見通せない。

次女がウクライナの友人と電話していると、背後で爆撃の音が聞こえることがある。「不安でたまらない」と打ち明ける次女を、エレナさんは「精神的に落ち着くためにも、日本の学校に通って日常生活を取り戻せれば」と気遣う。

ガリーナさんは「せっかくの機会なので美しいと聞く日本の桜を見たい」と気丈に振る舞う。ただ「できることなら一刻も早く帰りたい」というのが家族に共通する強い思いだ。

家族を迎えてくれた日本に心から感謝するエレナさん。その上でこう願う。「侵攻を止めるために何ができるか、各国が力を合わせてほしい」