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相続節税、暦年贈与に逆風 23年度改正で控除縮小も

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58996150R10C22A3PPN000/

 

シニア世代で子や孫に自分の財産を生前に贈る人は多い。贈与された財産には贈与税がかかり、贈与者ではなく財産をもらった人(受贈者)が支払う。贈与税には暦年課税と相続時精算課税の2つの方式がある。それぞれの仕組みをみてみよう。

 

暦年課税は年110万円の非課税枠(基礎控除)があり、暦年課税を使って毎年贈与することを暦年贈与という。1年間(1月1日~12月31日)にもらった金額が110万円までなら税金はかからず、110万円を超える場合は超過部分の税金を払う必要がある。課税対象の財産額が多くなるにつれて、税率が10%から55%まで高くなる累進方式だ。

 

一方、相続時精算課税は60歳以上の父母、祖父母から20歳(今年4月以降は18歳)以上の子、孫への合計贈与額が非課税枠(特別控除)の2500万円以内なら、何回贈与しても贈与税はかからない。2500万円を超える部分にかかる税率も一律20%で済む。

 

相続時精算課税のメリットについて税理士の藤曲武美氏は「親が亡くなる前に子どもが必要としているタイミングで、比較的多額の資産を贈与税がかからないか、暦年課税よりかなり少ない税額で贈与できること」と指摘する。

贈与された財産の使い道が自由なことも見逃せない。住宅取得資金の一括贈与では最大1000万円、教育資金では子・孫1人当たり1500万円の非課税枠があるが、目的が住宅購入などの費用や教育費に限られる。相続時精算課税では「何に使っても構わない」(税理士の川田剛氏)ため、資産が偏在する高齢者層から若い世代に資産移転を促すことで経済を活性化する効果もあるとされる。

大きな理由は贈与した人が死亡した際の相続税の違いだ。相続時精算課税では贈与財産がすべて相続財産に足し戻され、課税対象になる。暦年課税も足し戻しはあるが、死亡前3年以内の財産に限られる。例えば10年前から暦年課税で毎年贈与を続けて相続が発生した場合、死亡前3年分は足し戻すが7年分は加算されない。

川田氏は「相続時精算課税で節税効果があるのは主に贈与税だが、暦年課税は相続税の節税効果も大きい」と指摘する。このため富裕層の間では暦年課税を使って10~20年程度贈与をする人が多い。なかには年110万円の非課税枠を超えて贈与をするケースもある。贈与税を払う必要はあるものの贈与した分だけ相続財産が大きく減り、贈与税と相続税の合計額が暦年贈与をしない場合の相続税より少なくなるからだ。

政府はこうした節税対策を資産格差の拡大や固定につながるとしてかねて問題視し、贈与税全体の見直しを始めている。昨年末にまとめた22年度税制改正大綱で具体策を示すのは見送りになったが、今後の課題として「本格的な検討を進める」と明記した。藤曲氏は「早ければ23年度にも改正される可能性がある」と話す。